2010年07月13日

蔵書印


最近は,いちいち購入した本に蔵書印を押したり,識語を書き込むという人は少ないと思いますが,古書店で古い文庫本を探していると,蔵書印が押されていたり,書き込みのある本によく出会います。いまは本があふれかえってしまったためか,一冊一冊の文庫本を自分の精神的な財産,糧として愛着を感じ,蔵書印を押したり感想を書き込むということが少なくなってしまったのではないでしょうか。

一般には蔵書印や書き込みのある古書は,それがその書に関わる由緒ある印や書き込みである場合を除いて嫌われていますが,文庫本は,よい意味で"読めればよい"本なのですから,印や書き込みがあるからといって敬遠する必要はないと思っています(写真は昭和14年『春の目ざめ』への書き込み)。蔵書印はたいてい扉ページに押されており,立派に篆刻された印であったり,単なる三文判であったりします。たとえ三文判であっても,そこには単に文庫本を消耗品,読み捨ての本とのみとらえない,所有者の愛情が感じられて嬉しく思います。また,一つだけではなく,明らかに異なる複数の人により押されていることもあり,流れ流れてここまでたどり着いた,その小さな文庫本の歴史を感じることもできます。


蔵書印に関するエピソードでは,鴎外が「渋江抽斎」(岩波文庫にもあります)に興味を持った理由の一つとして,蔵印のことを書いています。鴎外は歴史小説を書くために「武鑑」を蒐集していくうちに,抽斎の蔵印のあるものに少なからず行き当たり,そのうち上野図書館蔵の「江戸鑑図目録」は渋江の稿本にして蔵印が押されてあるばかりでなく,抽斎云として考証を加えてあるのを見るや,やがて渋江氏が抽斎であったことが判明し,ようやく抽斎探求熱が燃え上がって,史伝小説をまとめ,この忘れられていた抽斎の名を世間に知らしめた,ということです(東大図書館には鴎外の手写したものがある由)。国会図書館には抽斎の蔵書が漢籍,黄表紙など26点あるそうな。

私も以前,神田の山陽堂書店で古い岩波文庫をよく買っていたときには,同じ蔵書印が押された本にいくつも出会いました。文庫本といえども,蔵書印を押したり,"熱い"書き込みがあるものを,簡単に手放すとは考えにくいので,これは本人亡き後に整理されたもの....と考えたいところです。文庫本の蔵書印で注意しなければいけないのは,判型がもともと小さいので,通常の25〜30mm角の印では,やや大きすぎるということです。私の中国製の蔵書印は25mm角なので,文庫本に押すにはちょっとじゃまです(18〜21mmくらいがよいようです)。本にあわせて何種類か用意できるといちばんよいですね。また文字も「・・・蔵書」のほかに何か気の利いた言い方があるかしら,と考えたときに,蔵書印・はんこ解説が参考になります。「祕笈」など愛書家の執念を感じますね。たとえ文庫本でも愛着のある本には,しっかりと蔵書印を押して,将来,子供が売り飛ばしたり捨てたりできないよう対策しておきましょう。

参考までに,国立国会図書館の電子展示会「蔵書印の世界」をご紹介。江戸時代の各藩,勝海舟や新井白石,日本一の蔵書を誇った名古屋の貸本屋大野屋惣八など,国会図書館の蔵書に現れた著名な人々の蔵書印が綺麗な写真で掲載されています。

(1998年6月17日ほか関連記事を元に改訂しました)
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2010年07月12日

蔵書票

蔵書票の美 (小学館ライブラリー (116))
樋田 直人
小学館
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小学館ライブラリの「蔵書票の美」は,かつて同社から出たものの再刊で,以前読んだことがあったのですが,蔵書票の起源や技術の進展,我が国の蔵書票の始まり,現代における蔵書票の意味などを,多くの図表を用いて解説した楽しい本です。

蔵書票とは,本の見返し部分に貼って,その本が誰の持ち物であるかを明らかにするための紙票で,一般には,○○の蔵書からという意味のラテン語「エクスリブリス」(Exlibris)と呼ばれています。英語では,bookplate。15世紀ドイツで生まれ,現存する最古の蔵書票といわれているのは,1450-70年頃に作られたヨハンネス・クナベンスベルクのハリネズミの絵のもので,通称「ハリネズミ書票」として有名です。

日本ではもっぱら蔵書印が使われていましたから,蔵書票が使われるようになったのは明治時代から。画家や版画家が手がけ,版画家武井武雄や川上澄生の一連の作品などが有名です。

文庫本では,蔵書印の押してあるものはしばしば見かけますが,蔵書票の貼ってあるものはほとんど見かけません。でも,パソコンでいろいろなデザインのオリジナル蔵書票を作って愛着のある本に貼るというのも面白いでしょうね。ちなみに,北海道室蘭市の文教堂書店(あのチェーンとは違います)では,オリジナルのカバーと蔵書票を作っていて,ダウンロード出来るようになっています。

文教堂書店 http://www.muroranbunkyodo.com/index.html

【参考】
ドイツ書票協会 http://www.exlibris-gesellschaft.de/
米国蔵書票協会 http://www.bookplate.org/
日本書票協会 http://pws.prserv.net/jpinet.Exlibris/jpinet.exlibys/association.htm
蔵書票の世界 http://pws.prserv.net/jpinet.Exlibris/jpinet.exlibys/exlibris.htm
蔵書票美術館 http://www5e.biglobe.ne.jp/~exlibris/

(1998年12月5日の記事を改訂しました)
posted by 南野靖一郎 at 20:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 1998年

1998年12月29日

1999年がよりよい年となりますように!

28日で仕事納めとなり,今年もあとわずか。どうにか無事に一年過ごすことができました。
私自身の今年を振り返って....と考えてみたのですが,家族ともども,これといって特別なことはありませんでした(まあ無事がなにより....)。インターネットに関しては,3月にAIRnetにホームページを移し,順次整備してきましたが,仕事でバタバタしていたせいもあって,目新しい企画が出せず,残念に思っています。来年は書庫が充実する(予定)なので,資料的にも役立つものを掲載していきたいと考えています。

いつも拙ページにお付き合いいただいております皆様,本当にありがとうございました。来年もまた,よろしくお願いいたします。皆様にとって,1999年がよりよい年となりますように!
posted by 南野靖一郎 at 20:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 1998年

1998年12月25日

雑誌の発売日

きょうはパソコン,インターネット系雑誌の発売日ですね。わたしは昼まで待ちきれず,通勤途中で買ってしまいました。もっとも,早朝なので普通の書店ではなく,東京駅地下の書店でしたが....。というのも「水滸伝(3)」を読み終わってしまったからなんですね。

その中に出てくる武松が西門慶を殺す話は,どこかで読んだ気がするのですが....金瓶梅だったかな....。
posted by 南野靖一郎 at 20:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 1998年

1998年12月24日

水滸伝(3)

クリスマスイブに本など読んでいる暇などあるか....とはいっても,特別イベントもないゆえ,「水滸伝(3)」を読んでいます。一気に全部揃ってから読む方法もあるのでしょうが,水滸伝の場合,べつにストーリーを細かく覚えてなくても,読み進むことができるのはありがたい。建築中の我が家は,ようやく屋根ができて家らしくなったところ。一応書庫も付いているのですが,パソコン机を入れたら身動き取れそうにないほど狭い....。
posted by 南野靖一郎 at 20:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 1998年

1998年12月22日

フルニエ「グラン・モーヌ」

グラン・モーヌ (岩波文庫)
アラン=フルニエ Alain‐Fournier ALAINFOURNIER
岩波書店
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古書店でよく見かける角川文庫版「モーヌの大将」。この題名では,なにか子供向けの物語かと思われて,いままで手に取ったことがありませんでした。今回,岩波文庫版で出たのを機会に読み始めたところ,背の高い大人びた友人モーヌと,私の少年時代の思い出を綴った素敵な物語で,ヘッセの初期作品やカロッサなど,青春小説好き^^の私にとって嬉しい本であり,一気に読んでしまいました。

この本が普通の青春小説と違うのは,ストーリーにいくつかの謎が置かれていることです。転校生モーヌが道に迷い,潜り込んだ奇妙な城での仮装結婚パーティ。そこで出会った絶世の美女イヴォンヌ。その城への道を見つけることができず,失意のうちにパリへ旅立つモーヌ。パリでの貧しい少女との出会い。婚約者に逃げられ旅芸人に姿を変えながら放浪するイヴォンヌの兄....果たしてモーヌは城とイヴォンヌを見つけることができるのか....パリの貧しい少女の正体は....私に残されたモーヌの手記の秘密とは....物語は,あの城でモーヌとその娘を見つめる私の姿で終わります....。

う〜ん,あまり読書欲をそそる紹介ではありませんでしたが,青春小説は単調なり....と思われている方にとくにお薦めします。
posted by 南野靖一郎 at 16:13| Comment(0) | 1998年

1998年12月21日

フルニエ「グラン・モーヌ」

岩波文庫12月新刊で最初に読んだのは,フルニエの「グラン・モーヌ」
よく古書店では古い角川文庫版「モーヌの大将」を見かけるのですが,いままで読んだことがありませんでした。背の高い大人びた友人モーヌと,私の少年時代の思い出を綴った物語。ヘッセの初期作品とかカロッサなど,青春小説好き^^の私には嬉しい本で,一気に読んでしまいました。

講談社学術文庫「ラ・プラタの博物学者」は,岩波文庫版にはない挿し絵が入っていて楽しめる本。以前取り上げたような気もしますが,最近重版したのか,書店で平積みになってたりして目に付くので,お薦めします。
posted by 南野靖一郎 at 20:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 1998年

1998年12月18日

カメラは病気

赤かぶ検事の和久峻三といっても,私はよく知らないのですが,大のカメラ好き,写真好きらしい。光文社文庫新刊「カメラは病気」は,その和久邸を訪れ,膨大なカメラコレクションを見た写真家・田中長徳との書き下ろし対談集(実際は長徳氏がインタビュアーのような雰囲気)。

和久氏のカメラや写真に対するアプローチは,いわゆるカメラマニアのそれと全く違って,実利や効率を一番に求めており,あまりの割り切りぶり,徹底ぶりに,ちょっと唖然とする長徳氏。和久氏の小説をよく読んでいる人は,当たり前と思うことかもしれませんが...。長徳氏のカメラ本には食傷気味というカメラファンにも,これはお薦め。
posted by 南野靖一郎 at 20:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 1998年

1998年12月17日

ちくま文庫「クリスマス・ブックス」

クリスマス・キャロル (岩波少年文庫)
チャールズ ディケンズ
岩波書店
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クリスマスシーズンといえば必ず登場するディケンズですが,ちくま文庫の「クリスマス・ブックス」は落語調で訳したという異色作。でも読んでみると,読みやすくはあるものの,代わり映えしないのは残念。同じディケンズの「クリスマス・カロル」岩波文庫版は,戦前に2度出たきりで,60年以上品切れ中^^です。
posted by 南野靖一郎 at 20:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 1998年

1998年12月16日

誤用辞典

「誤用辞典」を読んでいたら,こんな例がありました。

  • 濡れ手で泡

  • 今度の打席で汚名挽回の一発を

  • 彼の意見は的を得ている

  • 彼の意見は,波紋を投じた

  • 先輩,いろいろお世話様でした


....この辺は判りますね。ではこれは....



  • 自動販売機に「故障中」の貼り紙

  • マラソンで10人をゴボウ抜き

  • 子供が一ヶ月ぶりに風邪をひいた

  • 神事が古式豊かに行われた

  • 最近体調をこわしまして

  • 手をこまねいて待つ


....いかがでしょうか?

posted by 南野靖一郎 at 20:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 1998年

1998年12月15日

名古屋古書会館での即売会

相変わらず風邪で不調であります。中島さんの「文庫のページ」に名古屋古書会館での即売会のことが載っていました。名古屋にはたまに出張し,鶴舞にも行ったことがあるのですが,名古屋古書会館は見たことがありません。土日に開催するなど,なかなか良心的?ですね。東京の古書展も日曜日に開いてくれれば,とても便利なのですが,神保町自体,学生と大学関係者(とご老人のための街になってしまい,日曜日は完全休業。勤め人は相手にしないようですから,これは無理でしょう。
posted by 南野靖一郎 at 20:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 1998年

1998年12月14日

本を愛する人々へ

たとえ文庫本ばかりであっても,蔵書には違いなく,その管理に苦労している人も多いでしょう。神田古書店連盟による「本を愛する人々へ」は,本の保存や取扱いについて,教科書的に書かれており,参考になります。ただ,自宅や実家,会社のロッカーや机の下まで,文庫本で溢れている人間には,なかなか実行し難いようです....。
posted by 南野靖一郎 at 20:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 1998年

1998年12月13日

慶応の学生さんのレポート

週末は仕事でバタバタしている中,夜は横浜ランドマーク近くの遊園地で,10回もチビ電車に乗せられ,すっかり風邪を引いてしまいました。これから,雑誌の年末進行,忘年会やクリスマスでのんびり読書というわけには行きそうもありません....。慶応の学生さんのレポートですが中間報告が出ています。
posted by 南野靖一郎 at 20:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 1998年

1998年12月11日

岩波映画

よく学校で「教育映画」なるものを見せられたとき,その多くは文部省や文化庁の提供する岩波映画でした。岩波書店グループの一員であり,50年近い歴史を持つ同社が,昨日倒産したと聞き,なんとも残念な気持ちです。倒産理由としては,「芸術志向が高く制作費をはじめとする経費負担が大きいことから、収益性に乏しい経営だった」ということらしいですが,本体は大丈夫なんでしょうね….。
posted by 南野靖一郎 at 20:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 1998年

1998年12月10日

ふるほん文庫やさんの奇跡

相変わらず意気軒昂な「ふるほん文庫やさん」ですが,今度「ふるほん文庫やさんの奇跡」(谷口雅男著・ダイヤモンド社刊)なる会長の自伝が出るようです。目次を見る限りでは,
なかなか面白そうな本ですけど,紀田順一郎はちょっと誉め過ぎか….。とにかく読んでみることにしましょう。
posted by 南野靖一郎 at 20:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 1998年

1998年12月09日

オンラインジャーナル「本とコンピュータ」

オンラインジャーナル「本とコンピュータ」の12月号が出ました。紀田順一郎監修の連載”技術と日本語ものがたり”第一回は,日本語活字−成熟した木版文化との別れと題し,アジア各国における活版印刷の始まりを解説。日本のグーテンベルク本木昌造を紹介するほか,明治24年に発刊された「印刷雑誌」創刊号の全ページを復刻しています。凝った作りですが,ファイルが大きいので電話代にご注意あれ。
posted by 南野靖一郎 at 20:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 1998年

疑惑

ヒ素事件で思い出したのは,セイヤーズの「疑惑」(創元推理文庫)。急に体の調子が悪くなった男が,友人から主人を毒殺して逃げている女の話をきき,最近雇い入れた家政婦が,その女ではないかと疑う。

物置の奥にしまってあった除草用のヒ素剤を確かめると,きっちり締めておいたはずの蓋が緩んでいる。心配になって毒物検査をうけると,やはりヒ素中毒に間違いなかった。家に残している病弱な妻のことも気にかかる。そのうち体はますます衰弱し,家政婦に対する疑いは濃くなるばかり。

そんなある日,かの家政婦が居間に飛び込んできた。「旦那様,たいへんなお話がありますのよ。あの恐ろしい毒殺女がつかまったんですって。これでもう大丈夫ですわ….」

すべては誤解だったのだ。だが,そうだとしたら,この家のヒ素は? だれがいったいあれを….。彼はぎょっとして妻をふりむいた。そのときはじめて,彼女の目のなかに,いままで彼が,思ってもみなかったものを見た….。こんな感じの話でした。
posted by 南野靖一郎 at 20:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 1998年

1998年12月07日

モモのオペラ

エンデの「モモ」を一柳慧がオペラ化した公演に行ってきました。子供もいっしょに楽しめる歌やダンス,本の装丁でもお馴染みの山本容子の舞台デザインも学芸会風で面白く,満足。モモは岩波のドル箱?なのか,他社での文庫化は難しそうですが,もっと手軽に読めるようになると嬉しいなぁ。
posted by 南野靖一郎 at 20:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 1998年

1998年12月06日

小学館文庫創刊1周年

小学館文庫が創刊1周年を迎えました。光文社よりキンキラな記念帯には吃驚しましたが,この1年で191冊を刊行し,解説目録も発行。この解説目録,点数が少ないこともあって,詳しい紹介(各冊200字程度)と著者プロフィールが載っていて,なかなか楽しく読めます。
posted by 南野靖一郎 at 20:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 1998年

1998年12月04日

ディキンソン詩集

対訳 ディキンソン詩集―アメリカ詩人選〈3〉 (岩波文庫)
エミリー ディキンソン
岩波書店
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岩波文庫新刊「ディキンソン詩集」をパラパラ眺めていたら,懐かしい詩を見つけました。それは”I never saw a Moor – “という短い詩で,中学生の頃愛読していた英詩集に載っていたものです。その頃はなんとなく,寂しい生涯を送った(ブロンテ姉妹のように)女流詩人と思っていたのですが,なぜ彼女がホイットマンと並ぶアメリカを代表する詩人と呼ばれているのか,
本書の詳しい解説を読んで納得しました。所々に挿入されているディキンソンにちなんだ古い写真も,なかなかいい味を出しています。
posted by 南野靖一郎 at 20:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 1998年