2005年02月03日

再販問題

全国書店新聞2月1日号より
『出版再販研究委員会は1月24日午後6時から神楽坂の志満金で新年懇親会を開催、約50名が出席した。祝辞を述べた雑協白石勝理事長は、デパートの書籍売場でポイント・カードが使えず憮然とした女性客を紹介して「再販がどういうものであるか読者は知らない。再販制度がなくなれば日本の文化は危うくなるという点を得心いくよう説明していくことが重要だ」と述べ、読者の理解が必要なことを強調した。』
日書連萬田会長によると,「現在の再販契約書は、担当者が公取委に日参して2年間かけて作ったもの。出版業界は三者が一体になってやっていかなければならない。他業界は景況感を実感している中で、出版業界は遅れをとっている。今年こそは積年のポイント・カードを含めた再販問題に決着をつけると同時に、新たな制度や仕組みを同じテーブルで胸襟を開いて話し合う年にしたい」とのこと。
posted by 南野靖一郎 at 14:26| Comment(0) | TrackBack(0) | コレクション

2005年02月02日

書泉グランデのビニール袋

DSC00918.JPG
久し振りに書泉グランデの青い手提げ袋を手に入れた。そんな大げさなものじゃないけれど,いつも文庫本くらいしか買わないから貰わないのね。今回は堂々4500円のお買いあげで遠慮なく。なかなか可愛くて,我が家でも好評。コンビニ袋と同じような物しかくれない他の書店に比べて,これは嬉しい。ちなみに,書泉の栞については,本屋のさんぽ径で紹介されています。
posted by 南野靖一郎 at 00:03| Comment(0) | TrackBack(0) | コレクション

2002年01月09日

NHK生活人新書の創刊

一年でクラシック通になる2001年11月9日,NHK生活人新書が創刊された。
『・・・さて.皆さんは「生活人」という言葉を聞いてどのような人々をイメージされるでしょうか。時代の先端で忙しく活躍するエリートサラリーマン。家計のやりくりで頭を悩ます家庭の主婦。外国語の習得に余念のない若きO L 。キャンパスでメールや携帯と首っぴきの大学生。さまざまな像が浮かんでくるにちがいありません。・・・要するに,一人の社会人として,人生の喜怒哀楽を感じながらたくましく生きている心の自由人――。そうした人々を私たちは大いなる共感を持って「生活人」と呼びたいと思います。そして,その生活人に向けて私たちの新書を発信していきます。』 
そのために,取り上げるテーマが広いこと,家庭の誰でもが手に取れる新書にしたいとのこと。いわゆる教養主義ではなく,男性中心でもなく,『父親の新書を娘が読み,娘の新書を母が読む。家庭の中で行き交うような新書,そうした新書を作りたいと私たちは考えています。』
別に岩波新書が教養主義的で男性社会中心だと言っているわけではないのだが(言っているかな),誰でも手に取れる本は誰にも読まれない,といったことにならないことを祈る。
posted by 南野靖一郎 at 17:45| Comment(0) | TrackBack(0) | コレクション

2000年05月12日

光文社文庫

1945年,終戦直後に創業された光文社は,「頭の体操」「冠婚葬祭入門」「日本沈没」など,多くの話題作を送り出してきた「カッパの本」(1954年創刊)で知られ,ミステリー,エンターテイメント系の「カッパ・ノベルス」(1959年創刊)でも,「三毛猫ホームズ」シリーズの赤川次郎,「鉄道ミステリー」シリーズの西村京太郎など,ベストセラーを輩出している。

「光文社文庫」も,はや創刊16周年をむかえ,総発行部数は2億7千万部超えるという。現在流通しているのは700点余りで,毎月十数点を刊行中。最初はギラギラ光る帯が書店の文庫棚では異質に感じ,下品で恥ずかしいと思っていたのに,いまでは格別目立たなくなってしまったのは,岩波を含めほとんどの文庫がテカテカな表紙に変わってしまったせいか。この6月には新シリーズ「知恵の森文庫」もスタートする予定。
posted by 南野靖一郎 at 12:35| コレクション

1998年03月30日

徳間文庫

史記〈1〉覇者の条件徳間文庫の創刊は1980年10月。それでも既刊は1600点を越えたし、柿妹シリーズの「アニメージュ文庫」「パステルシリーズ」を加えるともうかなりの蓄積量である。
それもそのはず、総点数でなく毎月の生産点数では20点に近く、量産では上位五指に入る大手なのだ。徳間書店といぅ名前ではそれはど知られていなくても、系列会社には日刊新聞(東京タイムズ)、映画(大映)のはかレコード会社その他をもつメディア産業のコソツェルンだから相当なカをそなえているといえる。
「現代のエンターテインメント」が看板の徳間文庫は、いわゆる古典とか名著とは無縁な出発をした。内容的には春陽堂の春陽文庫と傾向を同じくするが、同文庫は作家の顔ぶれにひろがりがなく、次第にジャンルをせばめているからお株を奪った感じである。人気作者の評判作を文庫化しようとしている点では、戦前の春陽堂が出していた日本小説文庫に近い行き方だろう。
どんなシリーズにもライバルがあるもので、徳問文庫の場合は4年後に創刊された光文社文庫が強力なライバルとなった。ともに新書判の「ノベルス」ものを出し、ミステリー、ハードロマンといった傾向を同じくする社の文庫だから、ねらいも文庫の内容もかち合ってくる。こちらが出せばあちらも式に、今もはげしくせりあっているわけである。
アニメ映画の文庫化というアニメージュ文庫は、ノべライズで「となりのトトロ」を収録したりするが、本命は「宇宙戦艦ヤマト」やゴーショーグンシリーズ、「名探偵ホームズ」シリーズ、あるいは「風の谷のナウシカ」絵コンテ集など、宮崎駿の作品集の観がある。それだけ根強い人気があるようだ。パステルシリーズは1989年3月ティーン読者向け路線でスタートした。徳間文庫には以前「コスモス版」というやはりヤング向けシリーズがあったが、今度は本格的な刊行。文庫のローティーン化に拍車をかけている。
本論の方があとまわしになった。エンターテインメント路線は人気商品が大事。少し古くなると、品切れにせざるをえない。その点、物故作家は整理されやすいかも。あまり強くなかった翻訳ミステリーもサンダース、プロンジーニ等を入れて充実させているし、エッセイ類も評判で「バラエティ」部門が多くなった。大佛次郎、子母沢寛のものがふえたが、大佛の場合、「鞍馬天狗」シリーズはアナ場。朝日文庫などのシリーズには入っていない作を拾っている。
posted by 南野靖一郎 at 10:22| コレクション

1998年03月29日

春陽文庫

春陽文庫の歴史は古い。もとは春陽堂文庫といい,創刊はなんと1931(昭和6)年。現存する文庫では新潮・
岩波に次ぐ三番日の老舗なのである。最初は文芸路線だったが,戦後の1950(昭和25)年に春陽文庫と改称,
戦前に同じ春陽堂から出ていた日本小説文庫の流れを引き継いで,時代小説中心の大衆文芸路線に方向転換した。


この文庫には,他の文庫では読むことの出来ない独特の人気作家,大ロソグセラー作家が並んでいる。たとえば,時代小説の次の御三家。


★山手樹一郎

『桃太郎侍』『恋凰街道』『遠山の金さん』『江戸名物からす堂』などじつに96冊。
これは角川文庫の赤川次郎や和久峻三を大きく凌ぐ数字であり,驚異というはかはない。
これらは<山手樹一郎長編小説全集><山手樹一郎短編小説全集>という形で特別扱いの収録。

★角田喜久雄

『妖棋伝』『風雲将棋谷』『どくろ銭』といった伝奇時代小説の名作から『半九郎闇日記』『盗っ人奉行』『舟姫潮姫』
など普通の時代小説も含めて47冊。なおこの作家は推理小説も『高木家の惨劇』『奇跡のボレロ』など6作が収録されている。

★陣出達朗

昭和8年から活躍している古い作家。『たつまき奉行』『火の玉奉行』などの「遠山の金さん」物を中心に48冊。『よさこい奉行』とか
『すっとび奉行』といった愉快な題名の作品もある。


他に早乙女貢が『うつせみ忍法帖』ほか27冊,颯手達治が『若さま隠密帳』はか48冊,江崎俊平が『消えた若殿』ほか41冊。
時代小説といえば,現在は歴史小説スタイルのものが主流だが,これらの作家の作品は昔ながらの大衆時代小説である。
それらが20年前と変ることなく,絶版にもならずに目録に並んでいるのだから,依然として根強いファンが存在するのだろう。


最近は書棚が書店の隅に追いやられてしまってあまり目立たないが,新刊もちやんと出ている。推理小説の充実ぶりも見逃してはなるまい。
角川が横溝正史を大々的に取り上げるまでは,彼の作品は春陽文庫でしか読めなかったのである。現在でもその時代の伝統は残っていて,
<横溝正史長編全集>全20巻,<江戸川乱歩文庫>全30冊,という形で整理されている。島田一男,黒岩重吾,佐賀潜,
佐野洋らの旧作も沢山ある。ただし,装幀は相変らずで,あまりナウい雰囲気はない。

posted by 南野靖一郎 at 10:21| コレクション

1998年03月28日

ちくま文庫

文庫は出版社の事業計画の中で,どのように立案され創刊されるのであろうか。「ちくま文庫」(筑摩書房)は1985年12月4日
「新しい教養の復権」をスローガンに念願の創刊を果たした。


文庫創刊の企画段階から現在まで,中心となって活動してきた副編集部長の柏原成光さんに,これまでの道のりを聞いてみた。


創刊時の文庫編集部のスタッフは柏原さんを含めて5人。他の仕事を抱えながらの作業が創刊まで1年以上続いた。
創刊を前に柏原さんたちがいちばん悩んだのが,文庫の性格付けだった。


「そのころは角川文庫を中心に,先行文庫はエンターテインメント路線の大合戦でした。筑摩としては,この分野の実績は皆無。
エンターテインメントの文芸がダメなら,教養と大古典しかないと考えました。これが筑摩の財産ですからね。
それと読者層を他の文庫より少し上げて,ヤングアダルトにしました」


現在では普通,文庫の初版部数というと5万部というのが相場だ。ちくま文庫は本の内容から,定価は少し高くなるが(450円前後),
その半分以下の2万部でがんばれないかと考えたという。出版点数は創刊時に20点,以降は月6点のペースで出版することにした。
現在発刊総点数130点(昭和62年)。文庫としての陣容が整う300点が一応の目安だ。さて,これまでの結果はどうだったのか。


「周囲があまりにもエンターテインメントばっかりだったので,読者はちょっと新鮮な印象を受けたようです。他の文庫はダメだが,
おたくなら出してもらえるだろうと,思想書,哲学書の文庫化を望む読者の声もあったりして,期待以上でした。
若い人が文庫を支えていると思ったら,実は中年層のビジネスマンが多いんですね」


文庫創刊当時,文庫のかかった資金を回収するには1年半はかかるとみていた。それが1年で達成することができた。


「地味で堅い単行本を出す筑摩ですが,こうした本を作るためにも,必ず売れる本を出す必要があります。
若い人の期待できる本も必要です。ちくま文庫はその辺を担っていると思っています」


 


(ダカーポ 昭和62年3月18日号)

posted by 南野靖一郎 at 10:20| コレクション

1998年03月27日

創元推理文庫

1950年代の半ば,東京創元社が海外の推理小説に手を染めようとした時,積極的に賛成してその路線を押し進めたのは,
当時編集顧問だった小林秀雄であるという。世界推理小説全集,現代推理小説全集,世界大ロマン全集,クライム・クラブ,エラリー・
クイーン作品集,ディクスン・カー作品集などを刊行した後,1959年(昭和34年)5月に創元推理文庫を創刊。いきなりその年に55冊,
翌年には66冊を刊行した。


これは専門文庫としては破格の冊数であるばかりか,岩波,新潮,角川のメジャー文庫と比較してもさして遜色ない数字だったので,
読書界を驚かせた。以来,今日までほとんど海外ミステリのみで通し,多くのファンを獲得してきた功績は高く評価されよう。

posted by 南野靖一郎 at 10:19| コレクション

1998年03月26日

新潮文庫

 


新潮文庫は,一番歴史の古い文庫である。最初の刊行は1914年(大正3年)9月。これを含めて現在までに4度出されており,
1914年版は四六半裁(だいたいB7ぐらいで現在の文庫よりも小さめ;裁は代字),1928年版は新四六判(現在の文庫より縦長),
1933年版は菊判半裁(現在の文庫より少し大きめ),1947年版はA6(現在の文庫の大きさ)と,
新スタートのたびに判型が変化している。現在の新潮文庫は第4次の文庫で,戦前のものを絶版にしての再スタート。第1冊目は川端康成の
「雪国」だった。

posted by 南野靖一郎 at 10:19| コレクション

1998年03月25日

講談社文庫

1971年(昭和46年)7月の創刊。創刊時には一挙に70冊を刊行して話題になった。最大手の出版社が出す文庫ということで,
その影響は出版界をゆさぶるだろうと早くから言われていたが,
果たせるかなこれに続いて大手出版社がつぎつぎに文庫を出すようになって今日に及んでいる。


講談社文庫はいくつもの姉妹シリーズを続刊しており,講談社英語文庫,X文庫,L文庫,特に,遠藤周作文庫,森村 桂文庫,
石坂洋次郎文庫,江戸川乱歩推理文庫,吉川英治文庫といった個人文庫が特徴的である。講談社文庫と個人文庫で収録作品の重複が見られたが,
これは刊行を急いだ結果と思われる。


講談社の文庫グループのなかには失敗作もあったが,あらゆる分野に挑戦してきたので,文庫の歴史は浅いながら,いまや角川,
新潮につぐ刊行点数に達している。

posted by 南野靖一郎 at 10:17| コレクション

1998年03月24日

ハヤカワ文庫

長いお別れハヤカワ文庫は,1970年(昭和45),「さすらいのスターウルフ」(エドモンド・ハミルトン),
「征服王コナン」(R.E.ハワード)などのSFを皮切りにスタートした。


ハヤカワ文庫は,SF(サイエンスフィクション),FT(ファンタジー),JA(日本作家),NV(海外現代小説),NF
(海外ノンフィクション),Jr(海外ジュニア小説)などからなる文庫で,ミステリは含まれていないのだ。ハヤカワ・ミステリ文庫は,
全く違う種類のものなのである。では,モダンホラー文庫というのはなんだい?と考える人もいるかもしれないが,あれはNVの中の
「モダンホラー・セレクション」という分類なのである。


これに,ミステリアス・プレス文庫という海外の出版社と提携した文庫も加え,早川書房からは3種類の文庫が刊行されていることになる。


ハヤカワ文庫の各シリーズの特徴は以下の通り。


ハヤカワ文庫SF


1970年〜。すでに1000冊を越えた。 当初は日本人作品もハヤカワ文庫SFで出版されていた。ただし今はすべて絶版。品切れ,
絶版が少ない文庫といわれていたが, 最近は絶版になるのが早く、900番台でもすでに目録から消えている作品もある。 現在月4、
5冊ペース。


ハヤカワ文庫JA


1973年〜。400冊を越えた。 現在月1、2冊ペース。


ハヤカワ文庫FT


1979年〜。もうすぐ250冊。 現在月1冊(上下分冊の時は2冊)ペース。


ハヤカワ文庫HB


1991年〜92年。HBとはHi!Booksのこと。 全18冊。Jr、YR、GBと同様に短命であった。


複雑に絡み合うハヤカワ・シリーズ


早川書房には,文庫のほかにいくつかのシリーズがある。まず昭和28年以来続くあの膨大なハヤカワ・
ミステリ
。そのSF版ともいうべきハヤカワ・SFシリーズ。単行本のハヤカワ・ノヴェルズ,ハヤカワ・ノンフィクション。
さらには日本SFシリーズとか黒人文学全集とか,古くはハヤカワ・ライブラリなどなど。これらが文庫と複雑に絡み合っているのである。


たとえば,ハヤカワ文庫SFで刊行されている「火星の砂」,「脳波」,「虎よ,虎よ!」
といった作品はハヤカワSFシリーズを文庫化したものだし,ハヤカワミステリ文庫の「そして誰もいなくなった」,「ガラスの村」
ほか多くの作品はハヤカワミステリからの天下りである。では,ハヤカワSFシリーズ->文庫SF,
ハヤカワミステリ->ミステリ文庫という図式が常に成り立つかといえば,そうとも限らない。SFシリーズのドル箱人気作だった
「太陽の黄金の林檎」,「刺青の男」,「火星年代記」はハヤカワ文庫NVに収録されている。同様の例はポケミスにもあって,「航空救難隊」,
「サイコ」などは,ミステリ文庫ではなく,やはり文庫NVに入っている。


シリーズ刊行ものからの天下りでなく,文庫で初めて訳出された作品も相当な数に上る。しかし,
どういう作家のどういう小説が文庫オリジナルで登場するかについては,一定のパターンはない。


有名な「87分署」シリーズ。これは昔からハヤカワミステリで刊行されてきたものである。ところがある時,「われらがボス」
という新作がポコッとミステリ文庫で出た。以後は文庫で出続けるのかと思ったが,意外にもまたポケミスに復帰した。ディック・
フランシスの競馬スリラーはもっとややこしく,初期の「興奮」,「大穴」,「本命」などはハヤカワミステリ,「重賞」
がミステリ文庫オリジナル,後期の「反射」,「利腕」などはハードカバーのノヴェルズで刊行,という具合。


まあ,大体のところをいえば,海外で非常に話題を呼んだ作品(ジョン・ル・カレやレイ・デイトンのスパイ小説,カート・
ヴォネガットの新作などがその例)や,通好みで渋いミステリ(S・F・X・ディーンやS.T.ヘイモン)などは普通は文庫で訳出されない。シリーズものか,ちょっと軽いタッチの作品が文庫オリジナルになる,と思えばいいだろう。


ハヤカワ文庫FTについては,Alisato's
Room
に全点リストと詳しい解説があります。

posted by 南野靖一郎 at 10:16| コレクション

1998年03月23日

講談社学術文庫

菊と刀―日本文化の型講談社学術文庫ほど物議をかもした文庫はほかに例がない。「学術をポケットに」
をうたい文句に人文社会自然科学の著作物を文庫化するという方針に,中小出版社がドル箱としているロングセラーを奪うものと一斉に反発した。
岩波文庫の"古典"とは定義を同じくしない,いわば評判のよい"現代の名著"が照準だったからである。
よく売れているものをさらに安い値段で出すというサービスなら読者は大歓迎のはずであり,
売れているものを文庫にするなという主張はちょっとおかしい。しかし,文庫を出すのが大手中の大手とあっては,
学問の寡占化と中小出版社が反発するのもわからぬではない。これは文庫戦争のもっともシリアスな一面の現れともいえた。


ともかくも,他社の出版物を無理に文庫化しないという妥協によって学術文庫は出発したが,1975年8月の創刊以降,
同文庫は何度かの曲折を重ねながら今日に至っている。一時期から定価がかなり高く設定されるようになり,
そのことだけでも他の文庫とは一線を画するようになった。ポケットサイズにはなったが値段は必ずしも安くならなかったのは,
やや志とは違っていただろう。


長く絶版になっている著作を収録した時期,辞典類を積極的に文庫化した時期,日本古典の注釈書を出した時期,
などの目立つ傾向も見られたが,現在では比較的地味な研究書を入れるようになっており,書き下ろしというか,
文庫オリジナルのものも大分多くなっている。


絶版品切れ本が4割近くを占めるとどうしてもその方が気になるが,徳富蘇峰の「近世日本国民史」
を分冊収録してきたのに今はすべて品切れだし,「大日本人名辞書全5冊」もない。
売れ行きの思わしくないものは初版限りという感じがするのは残念だ。

posted by 南野靖一郎 at 10:15| コレクション

1998年03月21日

中公文庫

陰翳礼讃1973年6月創刊。初めは講談社文庫の発刊に刺激された形で参入し,自社単行本の防衛策という色彩が濃く感じられたが,次第に岩波・
新潮・角川の間隙をぬってノンフィクションに独自の路線を開拓し始め,
中公文庫ファンとも呼ぶべき新しい読者層の獲得に成功する。


「日本の歴史」,「世界の歴史」,「日本の詩歌」,「折口信夫全集」などの自社刊行シリーズものの文庫化も多い。


中公文庫の背表紙は肌色で統一されているので,書棚に並べたときも綺麗に揃う....と思いきや,
その色の濃淡はかなりバラバラである(日焼けしていない新しいものほど濃いとは限らない)。


それでも出版社別ではなく,書名や著者名で並べている書店での識別度は抜群といえる。

posted by 南野靖一郎 at 10:14| コレクション

1998年02月25日

旺文社文庫

旺文社文庫は昭和40年6月創刊。グリーンの表紙に,
それよりやや濃いめのグリーンの箱という上品な造りと,年譜や参考文献,
鑑賞のポイントなどを含む懇切丁寧な解説に特徴があった。


ラインナップは日本文学,外国文学,伝記,教養だが,同社の読者層を考えてか,教科書で親しんだ作家,
偉人伝といったものが選ばれており,すべて現代仮名遣い,注を巻末ではなく各奇数ページにおく,さしえや写真を入れる,
翻訳はすべて新訳とするなど,受験参考書出版社らしい,
親しみやすさや読みやすさを重視した編集方針であった。


しかし箱付きの文庫本はコスト的に苦しかったのか,昭和48年には箱を廃止。普通の色刷りカバーになってしまい,同時に,
内容の面でも生徒学生向きから,成人向けへと変わってきた。


なかでも,内田百問(代字)の阿房列車シリーズ(これのみ旧かな使用),
漫画家や落語家のエッセイ,歴史小説など,
他の文庫で手に入りにくい渋めのシリーズに人気があり,翻訳物でもマーク・
トゥエイン
のちょっと面白い話など,変わった作品を収めていた。


ちょっと古めかしいカバーデザインもそれなりに魅力があったが,他社のエンターテイメント路線に押されて,昭和62年,
1千点ほどを刊行し休刊となった。一部は光文社文庫などで復活したものの,ユニークな作品の多くが埋もれてしまったことは残念。


なお,箱入り本の他に,厚表紙の学校図書館向け特装本もつくられ,
これは古書店等で現在でもときどき見かける。

posted by 南野靖一郎 at 12:30| コレクション

1998年02月21日

文春文庫

坂の上の雲〈1〉1974年創刊。一見して紙質が安っぽく,表紙のデザインもそっけなく,新潮や角川などと比べて,
書店では地味な存在である。しかし内容をみれば,さすがに豊富な作家・作品を抱える文芸春秋ならではの,充実した書目を揃えている。


自社単行本中心ではあるが,芥川賞,直木賞作家,サントリーミステリー大賞作家などを擁しているうえに,
得意のノンフィクションを充実させてきているので,話題作や人気作にはこと欠かない。アンソロジーの類もまとめ方がうまい。
旺文社文庫がなくなった後,三國一郎編の「証言・私の昭和史」シリーズを編集したのなど慧眼といえる。


また,最近流行のビジュアル文庫も文春が先鞭をつけた。ただし,
マンガのアンソロジーはさほど感心できない。「懐かしのヒーローマンガ大全集」など売れ行きは抜群らしいけれども,あまり面白くはない。
「鉄腕アトム」「赤胴鈴之助」「まぼろし探偵」といった大長期連載マンガを細切れにして並べても,結局は「読み足りない」
という不満足感が残るだけなのである。

編者の姿勢も疑問。堀江卓の「矢車剣之助」が新しい描き下ろしとはガックリもいいところで,これでは"懐かしの"の意味がないではないか。
と企画がなまじっか嬉しいものだけに文句をつけたくなる。


ビジュアル版でいいのは,マンガではなく「お守り図鑑」とか「建築探偵術入門」とか「サンフランシスコがいちばん美しいとき」
といった面白い狙いの本である。とくに「サンフランシスコ....」は写真が美しく,文章も現代アメリカの一面を切り取っていて,
とても結構。


もう一つ見逃してならないのは,海外ミステリ部門。この路線が並々ならぬ強みを発揮している。
優秀作品をずらりと取り揃えているというわけではない。中の下クラスからせいぜい上の下クラスまでの作品が多いのだが,
サラリーマン層を中心によく売れるのである。


同程度の面白さの本ならば,ハヤカワ・ミステリ文庫や創元推理文庫よりアピール度が高いように思える。
ハヤカワや創元だといかにも本格派で専門的な雰囲気があるが,文春は一般向けの感じなので,付き合いやすいのであろう。


この文春海外ミステリー人気の密かな後ろ盾となっているのが,年末に「週刊文春」誌上で開催される<ミステリー・ベスト10>である。
このベストワンには往々にして,文春文庫の収録作品が選ばれる。選ばれない場合でも上位にくる。
数十万部の発行部数を誇る週刊誌がそれらを大きく取り上げるのだから,反響も大きい。


このベストテンごっこは,年末の行事として定着した。それは文春の海外ミステリー路線が,
読者の間で定着したということでもある


ただし,この海外ミステリー群も,すでに古いものは書棚から姿を消しつつある。中の下クラスのものは,
うっかりしていると絶版になってしまう恐れもあるからご注意,ご注意。

posted by 南野靖一郎 at 10:13| コレクション

1998年01月18日

小学館文庫

芸術は爆発だ!―岡本太郎痛快語録
1997年12月,創業75周年を迎えた小学館より新たに「小学館文庫」が登場した。シンボルマークは肥桶を担いだ男....ではなく,甲骨文字を図案化した,右手に知識,左手に勇気を掲げた男である。


収録書目のジャンル分けは,文芸・学芸作品(赤),自然・アウトドア(緑),実用・ライフスタイル(黄)のシグナルカラー3色による。ケイブンシャあたりで見たような背表紙だが,タイトルはハッキリしていて読みやすく,書店の棚でも探しやすいだろう。


発刊以来1ヶ月が過ぎて,最初の35冊中,増刷されたものが,西村雅彦「僕のこと,好きですか」,野田知佑「カヌー犬・ガク」,ドラえもんルーム「ド・ラ・カルト」など9冊。ちょっと見たところ,やはり文庫オリジナルや書き下ろしが売れているようである。


実際の本の造りは,扉や,カバーを外したときの表紙など,やや安普請の感じはするが,本文用紙は岩波文庫に対して赤みがかった色で,手に持った感じも軽い。なんと,アタマも綺麗に揃っている。


価格は,とくに書き下ろしや文庫オリジナルものは,比較的抑えられていて,他社に比べて割安な印象。「ライカ通の本」など,ビジュアル重視の書目でも220頁で460円とちょっと買いたくなる値段である。岩波は同じくらいのページ数で600円はするから....。


ただ,分類番号(Y-つ-1-1など)が,カバーの背以外,本体のどこにも書かれていないのはいかがなものか。将来,古書店などでカバーなしの小学館文庫を整理するとき,頼りになるものがない。まあ,岩波文庫のように,リストを作りながら系統的に読んでいくような人は,出てきそうにない,ということか。


また,奥付に価格が記載されていないのも姑息な感じがしてイヤ,と思ったら,岩波文庫も最近,書いていない。いつから価格は書誌的事項じゃなくなったのだろう。


ちなみに,「この種の本なら岩波文庫,というブランド・イメージは悪いことではない。小学館文庫とは考え方が違うので,全体としてはぶつからないでしょう。本の選択の可能性が広がるのは結構なことで,住み分けしてやっていきたいですね」と岩波文庫の塩尻親雄編集部課長は言っている。


小学館のホームページは,http://www.shogakukan.co.jp/

posted by 南野靖一郎 at 12:29| コレクション

1997年12月01日

幻冬社文庫とハルキ文庫

リカ
今年の文庫本界の話題は全般的な売り上げのダウンで,景気の悪いものばかりだったようだが,そんな中,幻冬社文庫,ハルキ文庫の創刊が話題となった。
ともに望む・望まぬの違いはあるが,角川を飛び出した元編集者※と元社長がつくった文庫。文庫戦争とはいうもののかつてのバブル景気とは違い,厳しい生き残り戦争となっている現在,これら新参文庫の登場はどれだけの意味があったのだろうか。
幻冬社文庫のセールスポイントは,「ジーンズのポケットに入りやすくするため幅を5mm縮め,目に優しい赤みがかった紙を使用した」ということだが,書店でこれに気づく人はいるかどうか。幅が縮んだとしても,嵩張って歩きにくいのでジーンズに文庫本を入れるのは難しい。幻冬社が60ページ以上のものはつくらない,というのなら話は別だが。
そもそも4年前にできた幻冬社自体,"出版界の風雲児"といわれながら,代表作が石原慎太郎『弟』や唐沢寿明『ふたり』というのだから,文庫化される作品も大方想像がつくというもの。それでも私は,幻冬社文庫を2冊だけ読んだ。マッキントッシュ・ハイDOS/Vブルースを....。とりあえず,意気軒昂な幻冬社社長・見城徹氏の「これは,事件になると思いますよ」発言にもかかわらず,
いまのところ文庫界に事件は起きていない模様だ。
ちなみに,見城氏の作家攻略法は,作家との結びつきを強固にすることで,「五木氏がサイン会を行ったとき,見城さんは最後尾に並んで順番を待ち,客がだれもいなくなってから『実は角川書店の編集者ですが,お邪魔してはいけないと思い,最後にご挨拶させていただくことにしました。ぜひうちから本を出してください』と口説いたそうです。また、新入社員当時,赤いバラの束を持って石原慎太郎氏の事務所に挨拶に行った話も有名。作家からすれば悪い気持ちはしないし,こうして見城氏は文壇に強固な人脈を築いていった」(出版社社員)という話もある(これで驚いたのは,そんなことで驚く出版社社員がいたことで,編集者が普段作家をどんな風に扱っているのか,判ろうというもの)。また,見城氏は幻冬社朝礼で,「編集者と作家は内臓と内臓がもつれあうように生きていかなければならないんだ!」と檄を飛ばしているという。
※角川春樹前社長のコカイン疑惑事件を機に退社した角川書店の社員らが新出版社・幻冬舎(資本金1千万円、従業員14人)を設立。1994年3月25日に同社初の刊行物を出版する。村上龍,吉本ばなな,山田詠美ら若手を代表する人気作家が書き下ろした“純文学”作品をはじめ,五木寛之氏のエッセー,北方謙三氏のハードボイルド小説,そして篠山紀信氏の撮り下ろし写真集と,6点をラインアップ。いずれも話題性を秘めており,部数も大きく伸ばしそうで,これを迎え撃つ他の出版社も座視できないようだ。(読売新聞)
海辺のカフカ (上)
ハルキ文庫の方は,やはり角川春樹編の「現代俳句歳時記」を免罪符として出してきた。たしかに「ハルキ文庫」という名前にはインパクトがある。しかしそのほかは,どこがハルキなのか,平凡な著者・タイトルばかりで魅力がないのは残念。「時かけ」の焼き直しなどで誤魔化さず,毒のある名前に相応しい文庫にして欲しい。スローガン「角川春樹事務所は<ニュー・エイジ>をコンセプトに新世紀の扉を開きます」のニュー・エイジはどこにいるのかが,まだ具体的に見えてこないのだ。
これら新参文庫に対して岩波書店は,「とくにどうということはないが....」と相変わらず投げやりなコメント。インターネットで通信販売も始めたし,もう書店の棚にはこだわらぬ,ということか。まさかね。

そして,12月5日には小学館文庫が創刊される。業界では最後の大物といわれ,春の創刊予定を大幅に繰り下げて,ラインナップを充実させたというので興味があったが,予告タイトルを見た限りでは,既存のエンターテイメント系の文庫と変わりがない。小学館文庫の企画は『週刊ポスト』のメンバーがやるらしいから,新鮮さを期待する方がおかしいのかもしれないが,「ド・ラ・カルト/ドラえもん通の本」くらいしか読みたい本が見あたらないというのは,なんとも小学館らしい....^^。
posted by 南野靖一郎 at 12:25| コレクション