岩波文庫「日本の島々 昔と今」(有吉佐和子)を読む。
昭和54,55年に著者は日本の北から南まで,12の島々を訪れ,その記録を雑誌「すばる」へ連載した。本書はそれをまとめたもの。表紙などを見ると,民俗学的な紀行文と思われるかもしれないが,実際に読んでみると,まったく違う社会派ルポだ。
当時t50歳,すでに「複合汚染」などで知られていた著者は,当然ながらこれらの旅を単なる観光旅行とせず,島々の歴史や地勢を詳述するとともに,島民と積極的に意見交換することにより,漁業,農業をはじめとする産業の現状を明らかにしていく。
とくに当時の日本は,二百海里問題や第二次石油ショックに揺れていたため,自ずから話題も漁民の石油問題や漁業権問題が中心となっており,外圧に弱い日本政府を嘆くとともに,島民の置かれた状況をわかりやすく描き出している。
なお,本書の文庫としては,これまで集英社文庫,中公文庫がある。