ちくま文庫の新刊は豊作だな…「雨の日はソファで散歩」(種村季弘)。書店に平積みしてあるのを見て、クラフト・エヴィング商會だ!とすぐに目についた。ほんとにわかりやすい。わかりやすい装幀は善である。本書は2004年に亡くなった種村氏が最後に編んだ自選エッセイ集。西日の徘徊老人篇(西日のある夏余生は路上ぞめきに)、幻の豆腐を思う篇(すし屋のにおい幼児食への帰還)、雨の日はソファで散歩篇(永くて短い待合室 素白を手に歩く品川)、聞き書き篇(江戸と怪談―敗残者が回帰する表層の世界 昭和のアリス)などと並べてみると,ずいぶん老人趣味の感もする。自分ももう若くないんだな。それは寂しいが、でも、こういう本を読むと、自分もいっぱしの趣味人のように思え、今どき死語となった高踏的な、などという言葉も浮かんできて、精神衛生上すこぶるよろしい。文庫とはいえ、書棚に本らしい本を置きたい方にお薦め。