鬼貫句選・独ごと

鬼貫句選・独ごと (岩波文庫)
上島 鬼貫
岩波書店
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岩波文庫新刊「鬼貫句選・独ごと」(復本一郎校注)。上嶋鬼貫(うえしまおにつら,1661-1738)は,芭蕉と同時代の俳人。伊丹の裕福な酒屋の三男として生まれ,若い頃から俳諧にすぐれた才能を示した。祖先が武士だったことを誇りに思い,壮年期は武士として筑後三池藩や大和郡山藩の京・大坂留守居役などを勤める。晩年は再び一介の俳人となり大坂で没する。

本書は,江戸時代中期の俳人,炭太祇が鬼貫の全発句のうちから四百余句を精選した句集。鬼貫は,「誠の外に俳諧なし」と,「誠」を基調に,詞やすがたにとらわれない率直でかつ俗語をも巧みに取り入れた洒脱な句風で知られる。与謝蕪村による再評価により,「東の芭蕉,西の鬼貫」と並び称された。炭太祇も本書の中で,「蕪村は宝井其角,服部嵐雪,向井去来,山口素堂に上島鬼貫を加えて「五氏」と呼んだ」といい,鬼貫を高く評価すべしと訴えている。併収の「独(ひとり)ごと」は,鬼貫58歳の作で,鬼貫の俳論・随想の集大成。

ちなみに,選者炭太祇(たん たいぎ,1709-1771)は,水国・慶紀逸に俳諧を学び,奥州・京都・九州などを巡った後,京に住み,仏門に帰依。道源と名乗る。やがて僧房を出て,妓楼桔梗屋の主人呑獅の招きに応じて島原の不夜庵に居を移し,手習師匠兼業の宗匠となった。1756年江戸へ帰省。与謝蕪村らとも交流があったという。