悪魔物語・運命の卵

悪魔物語・運命の卵 (岩波文庫)
ブルガーコフ
岩波書店
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岩波文庫の新刊「悪魔物語・運命の卵」(ブルガーコフ)を読み始める。読み始めては見たものの,途中で,これは?と思い読み返すことが多く,なかなか難解だ。感想は後日ということにして,作者紹介。ブルガーコフは,キエフに生まれ,大学卒業後医師となるが,1920年代に文筆活動を始め,「悪魔物語」,「犬の心臓」などを書いたが当時のソヴィエト政権から激しく批判され,発表できたものは限られていた。戯曲も多く手がけ,ロシア革命に反抗し滅び去っていく者達の運命を描いた自伝的長編「白衛軍」を戯曲化した「トゥルビン家の日々」は,モスクワ芸術座で上演されて大きな成功をおさめたが,その後上演禁止となった。晩年は正当に評価されることなく,孤独と失意のうちに死んだが,ソ連体制下の文学者の象徴的存在であった。戦後,粛清された作家達が名誉回復される中で,ブルガーコフの再評価の動きは遅かったが,死後20年以上経ってから出版された長編「巨匠とマルガリータ」は国内のみならず全世界で出版され絶賛された。
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「悪魔物語・運命の卵」(ブルガーコフ)読了。「悪魔物語」は,かなり風変わりな小説で,これが当時のソ連当局の官僚主義に対する風刺だということはよく分かるが,正直なところ,本作品が文壇に与えた大きな影響や,最近になってようやく再評価が進んでいることなど,私の勉強不足であろうが,文学史的な興味以上を感じることはできなかった。「運命の卵」は,世界的な生物学者が発見した生命増殖の効果を持つ赤色光線に目を付けた男が,鶏と間違って蛇やダチョウの卵を照射してしまい,巨大化した動物により街がパニックになるという,SF特撮映画によく出てきそうな筋立て。ソ連らしく,寒波によりそれらの動物が死滅し,助かったという結末なのだが,やはり当局を皮肉った場面があちこちにあり,面白く読むことができた。