1998年1月


カフカ寓話集
迷路のような巣穴を掘りつづけ,なお不安に苛まれる大モグラ.学会へやってきて,自分の来し方を報告する猿….死の直前の作「歌姫ヨゼフィーネ」まで,カフカ(1883-1924)は憑かれたように奇妙な動物たちの話を書きつづけた.多かれ少なかれ,作者にとっての分身の役割を担っていたにちがいない,哀しく愛しいかれら.

ホイットマン詩集 草の葉 全3冊 上
伝統的な詩の形式を無視した自由詩で,あるがままの人間の生命を賛美したホイットマン(1819-92)の詩は,アメリカをしてアメリカたらしめている根源的作品といわれる.その集大成である『草の葉』(1855-92)は,アメリカ文学を代表する傑作となった.上巻には,「ぼく自身の歌」「アダムの子供たち」「カラマス」などを収録.〈改訳新版〉

アラン幸福論
ルーアンの新聞に「日曜語録」として連載されたのを皮切りに,総計5000に上るアランのプロポ(哲学断章).「哲学を文学に,文学を哲学に」変えようとするこの独特の文章は,「フランス散文の傑作」と評価されている.幸福に関する93のプロポを収めた本書は,日本でも早くから親しまれてきたもの.折にふれゆっくりと味わいたい.

摘録劉生日記
大正9年元旦,「今日より余は30歳となる.新しき心地幾らかする」と日記に書いた岸田劉生は,大正14年7月9日まで,1日も休まず克明に日記をつけた.劉生の日記の中で最も興味ぶかいこの時期の日記から摘録した本書は,志賀直哉との交遊,麗子像を描いた時のことなど,劉生の素顔が浮き彫りになる記事が多い.人名索引を付す.