“好きな作家は?”と訊ねられてカフカと答える人は多いだろう。岩波文庫にもカフカが3点収録されており,主だった作品を読むことができる。
変身(断食芸人),審判,短篇集(掟の門,判決,田舎医者,雑種,流刑地にて,父の気がかり,狩人グラフス,火夫,夢,バケツの騎士,夜に,中年のひとり者ブルームフェルト,こま,橋,町の紋章,禿鷹,人魚の沈黙,プロメテウス,喩えについて,万里の長城)
そんなカフカ好きの人には,よく知られている作品かもしれないが,ベンヤミンの「ボードレール」(岩波文庫)に収められたカフカ論,フランツ・カフカ,カフカについての手紙の2篇は数あるカフカ論の中でも,とくに興味深いものだ。
ベンヤミンは,ポチョムキンの鬱病のエピソードからはじめ,腐敗した官僚制と父子関係の相似を示唆し,カフカの世界を人間が最初から舞台に立っている世界劇場だとする。
カフカの著作を根本から見誤るしかたは二つあって,ひとつは自然的解釈,もうひとつは超自然的解釈(または精神分析的解釈と神学的解釈)であるとして,「天上の権力,恩寵の領域」を描いたとするラングやハースの解釈を安易だと決めつける。
またカフカの技法について,「Kに向かって,小説のなかのほかの登場人物たちが,何ごとかを-じつに重要なことであれ,きわめて思いがけないことであれ-語ろうとするときには,ことのついでのように,また,いわばKもとくに承知のはずのことを語るのだというふうに,それを口にのぼせる。あたかも,何も新しいことを語るわけではなく,Kが忘れていたことに気づくよう,さりげなく仕向けている,というかのように」とし,彼をまれにみる比喩の天才とみる。
カフカ理解の手がかりを得たいという人,一般的な宗教的解釈に釈然としないものを感じている人にとって,明快かつ刺激的なガイドになると思い,お薦めしたい。