世に推薦図書はいろいろあるが,たいていはブックフェアなどのために出版社が毎年,自社のラインナップから代わりばえのしない作品を選んだり,あるいは読書感想文のために児童文学者(ってなんであんなに胡散臭いんだろう)が,聞いたこともない著者の本を選んだりして,あまり真面目に読んでいこう!という気にはならないものだ。それでも,その選ばれた作品の変遷を追いかけていけば,おのおのの時代の世相,流行を知る上での一つの手がかりにはなるだろう。(たとえば「新潮文庫の百冊」の歴史など)
そんな数多くの選書の中で,これから先,おそらく2度とないであろうセレクションが岩波文庫にはある。それが昭和15年と17年,陸軍の要請・選択によって,戦地の兵士慰問のために納入された下記30点で,そのための印刷用紙も軍から特別配給された。非常時に兵士に慰問袋などで配られた本とあれば,さぞかし国粋主義的な作品ばかり選ばれたのであろうと思うが,意外にも日本やドイツはもとより,アメリカやフランスの作品も含まれたヴァラエティーに富んだ選択で,ドーデーやスピリの「ハイジ」など,のどかな気分さえ感じられる。軍部でこれらが選ばれた事情は定かでないが,なんとなくある個人の趣味によって選ばれたような気がしないだろうか。
昭和15年 各5000部 |
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志賀直哉 | 小僧の神様 |
志賀直哉 | 万暦赤絵 |
夏目漱石 | 虞美人草 |
徳冨健次郎 | 黒い眼と茶色の匙 |
徳田秋声 | あらくれ |
泉鏡花 | 註文帳・白鷺 |
永井荷風 | おかめ笹 |
中勘助 | 銀の匙 |
ハドスン | 緑の館 |
トウェーン | 王子と乞食 |
ウェブスター | あしながおじさん |
トオマ | 悪童物語 |
バルザック | 知られざる傑作 |
メリメ | コロンバ |
ドーデー | 陽気なタルタラン |
サンド | 愛の妖精 |
フローベール | 三つの物語 |
プーシキン | 大尉の娘 |
アラルコン | 三角帽子 |
スピリ | アルプスの山の娘 |
昭和17年 各10000部 |
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森鴎外 | 高瀬舟 |
幸田露伴 | 五重塔 |
尾崎紅葉 | 二人女房 |
国木田独歩 | 武蔵野 |
島崎藤村 | 千曲川のスケッチ |
泉鏡花 | 歌行燈 |
ハイゼ | 忘れられた言葉 |
ヘッセ | 漂泊の魂 |
ラファイエット夫人 | クレーヴの奥方 |
スタンダール | カストロの尼 |