岩波文庫「蛇儀礼」(ヴァールブルク)を読む。
ヴァールブルク(1866~1929)は、裕福なユダヤ系ドイツ人の銀行家の家に生まれ、13歳の時に弟に家業を譲る代わりに、自分の芸術学関係の研究に必要な書籍の購入と生涯にわたる生活の資金提供を約束させたという早熟ぶりだった。
ドイツやイタリアで美術関係の研究をしたのち、弟の結婚式でアメリカに渡ったのを機会に、南西部のアリゾナやニューメキシコを旅して、インディアンの生活や儀式に触れたことが、本書(講演録)誕生のもととなった。
アメリカから戻ったヴァールブルクは、その資財を元にハンブルグにヴァールブルク文庫を設立し、膨大な書籍の収集を始めた。のちにナチスが政権を握ると、反ユダヤの攻撃を避けるため、6万冊の蔵書はロンドンへ運ばれ、その後の補充を含めて32万冊を擁していたとのこと。
その間、ヴァールブルクは精神を病み、スイスのクロイツリンゲンにある病院に入院する。高級ホテルのようなお金持ちのための病院だったが、5年ほどで自力快復、退院の許可を得るために患者やスタッフの前で講演することとなり、1923年4月21日に「クロイツリンゲン講演」が行われた。本書はその狂気から生還した日の講演記録である。この辺の事情は、200ページほどの本書の半分を占める解説に詳しい。
本書は、もともと講演録なので、豊富な図面と平易な言葉で書かれており、取っつきやすく見える。しかし、読み進んでいくと、なかなかこれは手強いことに気づき、併収されているドイツ語版解説が大いに助けになった。