岩波文庫「随筆 女ひと」(室生犀星)を読む。
本書は,女の人の美しさについてのエッセイ集。「新潮」への連載をまとめたもので,1955年に刊行され評判を呼び,戦後雌伏し続けていた犀星復活の契機となった(文庫本としては,続編「続女ひと」とともに新潮文庫からも出ていた),
本書が刊行されたのは,著者65歳のとき。老作家たる犀星は,二の腕や足,声などに現れる女性の魅力を語り,さらに自らの童貞喪失の思い出にも触れている。年齢的にも時代的にも「渋い」趣味と思われようが,犀星の語り口はずいぶん素直で,若々しい。
「6月7月で美しいものは,自然もそうだが,人間歳時記ではなかんずく女人が際だって派手に見うけられる。四季のうちで女人が二の腕をあらわにする季節は,初夏ではことさらにあざやかなものである」
「夏になると女の人の声にひびきがはいり,張りを帯びてうつくしくなる」
1889年金沢に生まれた犀星は,生まれてすぐ里子に出され,養家は義理の姉を娼婦に出すようなところで(本書にはこの姉を慕った幼い頃の思い出も書かれている),高等小学校を中途退学。裁判所や新聞社につとめながら,俳句や詩に親しむようになり,上京後1919年に「幼年時代」,「性に眼覚める頃」,「或る少女の死まで」を発表,流行作家となった。戦後は,本書で文壇に復帰,1957年「杏っ子」,1959年に「かげろふの日記遺文」を執筆した。1962年没。