徳間文庫の創刊は1980年10月。それでも既刊は1600点を越えたし、柿妹シリーズの「アニメージュ文庫」「パステルシリーズ」を加えるともうかなりの蓄積量である。
それもそのはず、総点数でなく毎月の生産点数では20点に近く、量産では上位五指に入る大手なのだ。徳間書店といぅ名前ではそれはど知られていなくても、系列会社には日刊新聞(東京タイムズ)、映画(大映)のはかレコード会社その他をもつメディア産業のコソツェルンだから相当なカをそなえているといえる。
「現代のエンターテインメント」が看板の徳間文庫は、いわゆる古典とか名著とは無縁な出発をした。内容的には春陽堂の春陽文庫と傾向を同じくするが、同文庫は作家の顔ぶれにひろがりがなく、次第にジャンルをせばめているからお株を奪った感じである。人気作者の評判作を文庫化しようとしている点では、戦前の春陽堂が出していた日本小説文庫に近い行き方だろう。
どんなシリーズにもライバルがあるもので、徳問文庫の場合は4年後に創刊された光文社文庫が強力なライバルとなった。ともに新書判の「ノベルス」ものを出し、ミステリー、ハードロマンといった傾向を同じくする社の文庫だから、ねらいも文庫の内容もかち合ってくる。こちらが出せばあちらも式に、今もはげしくせりあっているわけである。
アニメ映画の文庫化というアニメージュ文庫は、ノべライズで「となりのトトロ」を収録したりするが、本命は「宇宙戦艦ヤマト」やゴーショーグンシリーズ、「名探偵ホームズ」シリーズ、あるいは「風の谷のナウシカ」絵コンテ集など、宮崎駿の作品集の観がある。それだけ根強い人気があるようだ。パステルシリーズは1989年3月ティーン読者向け路線でスタートした。徳間文庫には以前「コスモス版」というやはりヤング向けシリーズがあったが、今度は本格的な刊行。文庫のローティーン化に拍車をかけている。
本論の方があとまわしになった。エンターテインメント路線は人気商品が大事。少し古くなると、品切れにせざるをえない。その点、物故作家は整理されやすいかも。あまり強くなかった翻訳ミステリーもサンダース、プロンジーニ等を入れて充実させているし、エッセイ類も評判で「バラエティ」部門が多くなった。大佛次郎、子母沢寛のものがふえたが、大佛の場合、「鞍馬天狗」シリーズはアナ場。朝日文庫などのシリーズには入っていない作を拾っている。