1997年の「ゴリオ爺さん」以来,岩波文庫から出た久しぶりのバルザックが「ゴプセック・毬打つ猫の店」。
出版前からいろいろ面白いことがあって,まず,岩波の紹介文には「本邦初訳を含む」と書かれているが,本書のあとがきにも,両作品とも先訳を参考にしたとある通り,これは勘違いだろう。本書の出版予告が「毬打つ猫の舌」と誤記されてたためか,あるいは戦前の東宛書房版が「鞠打つ猫の店」という表記だったためかわからないが,いずれにしても杜撰な感じは免れない。
この2つの物語は,1830年,バルザック31歳の時に刊行されたもの。週刊誌風にいえば,ゴプセックは,高利貸しが見た貴族世界の裏事情。毬打つ猫の店は,若き天才画家と美しき商家の令嬢との身分違いの恋,ということになるか。
イントロが長く,耳慣れない名前のたくさんの人物が登場するバルザックの作品は,なかなか読むのに骨が折れる。かつてバルザックの墓参りもして,意欲だけは負けないつもりの私も,正直なところ,本書は相当端折りながら読んでしまった。
ただ,本書の「化石と手形」と題する訳者解説は,当時の時代背景を踏まえて,たいへんていねいに書かれており,今更バルザックの小説は勘弁・・・という人でも,ここだけは読むことをオススメしたい。