遅ればせながら,岩波文庫「定本 育児の百科」(下)を読む。諸般の事情により刊行が大幅に遅れたようだが,これで全3巻が完結。
市井の医師松田道雄氏が,核家族化が進み,「育児の伝統から切り離された母親を支援する」ために,本書を出版したのは1967年のこと。
その後,医学の進歩はもとより,読者や幼児教育に携わる人たちの声も反映し,数度の改訂が行われ,最後に今回文庫化された「定本」版が出たのは1999年。初版が出たとき小学生だった私も,定本版が出たときには育児のまっ最中。まさに,世代を超えた育児書だ。
数多ある育児書のなかで,「育児の百科」が,読み継がれ,いまなお読者を増やしている秘密は,「子どもの立場に身をおいて育児を考える」という著者の基本姿勢に尽きる。著者は,育児のそれぞれの過程で,いま親が子供のために何をすべきか,ということを明快に示してくれる。
よく,「子供の成長には個性があるのだから心配しなくてもいいですよ」と医者は言う。しかし,それで親の不安が無くなるわけではない。『2歳から3歳という時期は,あまりごはんを食べない。どの母親も「うちの子はごはんを食べない」と心配する。しかし1年間に体重がせいぜい2kgしかふえないでいい時期なのだから,ごはんをそんなに食べる必要がないのだ』。
著者は,あくまで子供の立場で親を諭してくれる。これが読者に大きな安心感を与える。
本書を読んで,もう一度育児に挑戦したくなってきたが,それは無理な話。しかし,すでに育児を終えてしまった人にとっても,自分の育児経験を振り返るよい機会になるだろう。