ようやく夏らしい暑さが続くようになったと思ったら,早くも8月半ば。夏休みも残り少なくなってきましたが,この夏,なにか印象に残る本を読みましたか?
私は,以前から読もうと思いつつ,書棚に積んであった岩波文庫「回想のブライズヘッド」(小野寺健訳)を読み終えたことが一番の成果。というのも,本書は学生時代,吉田健一訳を図書館で借りて,途中まで読んで止めてしまった覚えがあったからです。なぜ,そのとき最後まで読まなかったのかわかりませんが,ずっと心に引っかかっていて,いつか読まなければと思ってはいたのです(もっともそういう本はいくつかあるのですが・・・)。
それで,岩波文庫版が出たとき,これはチャンスだと思ったのですが,なかなか読み始める勇気がなく,夏休みに入ってから,一気に読み切るべく,午前中は川崎の喫茶店,午後は横浜の喫茶店に籠もることとしました。不退転の決意で臨んだわけですが,それは杞憂で,読み始めたとたん,とても途中で止められるものではなく,結局上下2巻を一日かからずに読み切ってしまいました。
原題は「ブライズヘッド再訪」。イギリスの名の知れた画家であり,戦時下のいまは将校として従軍している「私」が,ある日,ブライズヘッドの広大な邸宅に駐屯することになります。そこは,学生時代からの友人,青年貴族セバスチャンの家であり,かつて結婚の約束をしたその妹ジューリアとの思い出の地でありました。いまは荒廃した邸宅にあって,華やかな青春の日々を回想し,そこに集った人々の運命に思いを馳せる「私」。
戦前の貴族一家の華麗な生活ぶり,その裏で繰り広げられる男と女の駆け引き,信仰をめぐっての争いと苦悩。これだけ止めようとしても止められない物語を,なぜかつて読み切れなかったのかは結局,わかりませんでした。