永井荷風の膨大な日記「断腸亭日乗」を読むと,昭和初期の華やかな銀座の姿が浮かんできて,なんとも楽しい気分になります。その名残をとどめる銀座のカフェで,本年没後50年を迎えた荷風の在りし日の姿を偲びつつ本書を読むのは,荷風ファンにとって,何とも嬉しいひとときです。
作家佐藤春夫は,若き日に荷風の作品に接し,慶應義塾の教授となった荷風の門をたたきます。その後,荷風の身近にあって,日常の生活,文壇での作家や編集者らとの交流,家族との関係,晩年とその死などを評伝として纏めたのが本書。小説と銘打っているとおり,堅苦しい評論ではなく,読み物として大変面白く,荷風読者へのガイドとして1960年の出版当時から,話題となったものです。
本書には,終戦直後に書かれた評伝「永井荷風-その境涯と芸術」ほか2篇も収められており,荷風に興味がある方には,ぜひお薦めします。