岩波文庫の特装本としては,大きい活字の「ワイド版岩波文庫」が出ているが,これはB6判の市販品。
それ以外にも特殊な特装本が数種出ていたことがわかっている。
まず,訳者自家用版。本文は通常の文庫本と同じで,
本の大きさが天地左右とも文庫本より5mm程度大きい。未断裁で,表紙に模様はなく,白い紙装。通常の奥付はなく,かわりに
- 昭和14年3月発行
- 岩波文庫訳者自家用版
- 20部中1番本
と書かれているものだ。
この例として,「珍本古書」(高橋啓介著)には,「ベートーヴェンの生涯」(ロマンロラン,片山敏彦訳)と「弟子」(上・下,
ブールジェ,内藤 濯訳)の戦前版2点が紹介されており,ベートーヴェンの裏表紙には「壺型岩波」の空押しがある。
古書店にも姿を現さないので,それ以外にどのようなタイトルがあったのか,よくわかっていない。
ほかにも,総革装など特殊な岩波文庫の例が明治大学・
奥村氏のページに掲載されている。雑誌「文庫」などには,「趣味の岩波文庫製本」といった記事も出ているので,
なかには読者が自家製本した例もあるだろうが,本ページで紹介されているような市販された特装本というのは珍しい。