岩波文庫6月の新刊「小説神髄」(坪内逍遥)。名前は知ってるが読んだことがない,という方も多いかと思います。岩波文庫でも昭和11年の旧版以来,74年ぶりの改版。私の持っているのも当然旧版ですが,今回,底本から見直し,字体を通行字体に改め,振りがなを充実させるなど,読みやすくなったとのこと。 『小説神髄』は明治18年刊行,最初の体系的文学論として近代文学史の幕開けに名を刻む書です。「坪内氏は小説神髄などいう書物に自己の思う所を議論的に発表せられたので,吾々のような今まで研究したこともない,従って定見もない子供には,この議論と実際と相まって非常にわが心を動かした。この頃余はもはやこの種の小説この種の文体よりほかに吾々が執るべき筋道はないと思うて,ぞっこん惚れ込んでしもうた」(正岡子規)。東京大学を卒業したての弱冠27歳の文学士が発表した小説論が,新しい世の文学を志す若者たちにいかに衝撃を持って迎えられたかは,明治18年という時代状況を抜きにしては語れません。以下,文庫編集部のページをご覧下さい。