6月30日
7月7日に岩波文庫の一括重版があります。今回は比較的最近の書目ばかりで,めぼしいものがないのは残念ですが,メリメの
「怪奇小説選」,サンドの「フランス田園伝説集」など楽しい読み物が多いので,緑陰読書には結構かと思います。
6月29日
書店で「’98角川文庫の名作150」の小冊子を貰いましたが,なかなか面白いですね。名作とは言いながら,
普段岩波文庫ばかり読んでいる人だったら,ほとんど読んだことのない作品ばかりでしょう^^;;。勉強になりました。
ところでその冊子に「文庫による読書感想文コンクール」募集というのが出ていたのですが,なんと各中学・
高校での校内審査や学校推薦による県コンクールを経ての全国大会だとか….。これじゃ,審査員に林真理子がいようと誰がいようと,
「中学・高等学校の先生」感想文コンクールだわな。このインターネット時代に,なんかとんでもない時代遅れに見えますが。
6月26~28日
いやー,週末はものすごく暑かったですね。渡部昇一が,我が国の夏の読書や執筆において,
当時あまり一般的でなかったクーラーの効用を取り上げ,それでやっと欧米並みの生活ができる,と言ったことがありましたが,
たしかに仕事でも家庭でもクーラーなしの生活は考えられなくなってしまいました….。だいたい,
最近のオフィスビルは窓が開きませんものね。
“本と遊ぶ・
本いろいろ”というページでは,珍しい文庫本や奇怪な?本など,ちょっと変わった本を取り上げています。
まだできたばかりのようなのですが….。
6月25日
「野上弥生子短篇集」(岩波文庫)の”或る女の話”は,一人の女がさまざまな男に翻弄され,流されていく話ですが,これを読んで,
「裁かれる大正の女たち」(中公新書)を思い出しました。
女性解放運動勃興期における世間一般の女性のおかれていた立場を,主に新聞記事や身の上相談の回答などから調べた本書には,
「新しい女」に対する政治家や小説家の評価,とりわけ同じ女性からの徹底した避難が集められています。生田長江の
「婦人の最も良くないものは,男子の最も良くないものより悪い」とか,夫の浮気や蓄妾に対して離婚したいという女性に,
「ほとんどすべての女性が結婚して同じ経験にあいます。男性の世界が腐敗しているからです。しかし,そうさせているのは女性です。
あなたの清い愛の力で夫を導いていき,自分が悪かったと悟るようになさるしかありません….」などなど。いやはや。
6月24日
岩波文庫の自然科学書の中で,私のお薦めは「植物の育成」(全8冊)です。植物の品種改良に関する古典的な本で,
メンデルの法則に沿った選択交配による種無し果物や,巨大いもなどの創製を,そのパイオニアであったバーバングが記録したもので,
現在のようなホルモン調整や遺伝子操作に依らないプリミティブな手法による努力の過程が語られていて面白い読み物となっています。
でも内容より面白いのは,その異様な訳文で,直訳調というレベルを飛び越えて,判じ物というか原文推測パズルというか,
すごいものです….。今月出たマキャベリなど,最近改訳が進んでいる岩波文庫ですが,こういう過去の遺物にも一度,
挑戦されることをお薦めします?!
6月23日
幻冬舎文庫が売れ行き不調との話をよく聞きます。我が家の近くの書店では,結構場所をとって並べてあるのですが….。(以下転載)
今回の「ダディ」の出版は同社にとって大博打だった。
というのも初版50万部は出版界では異例を通り越して不可能に近い数字だからだ。出版関係者は「200万部以上売った松本人志のエッセー集
『遺書』でさえ初版は5万部だったと聞いていますし、
ノンフィクションになると初版を6000部か8000部かで営業と編集が応酬を展開するほど。ですから初版50万部というのは、
異常な出来事というしかありません」
そんな冒険をしても「売れる」と決断したのが社長の見城氏だ。広告代理店関係者も
「郷が離婚を告白しただけの本ならこんなに売れなかった。しかし、
他の女性との関係や友里恵前夫人との暴力沙汰まで告白しているためスポーツ紙やワイドショーが取り上げ抜群の宣伝効果を上げた。
見城氏の古巣の角川書店は活字、映像、広告を総動員したメディアミックスに熱心でしたが、見城氏もそのノウハウを熟知している」
ただ、戦略を練れば売れるというほど甘くはない。人気作家をそろえてこそ売れ行きも伸びる。見城氏と作家の結びつきは強く、
五木氏との親交もゼロから築き上げた。「五木氏がサイン会を行ったとき、見城さんは最後尾に並んで順番を待ち、客がだれもいなくなってから
『実は角川書店の編集者ですが、お邪魔してはいけないと思い、最後にご挨拶させていただくことにしました。ぜひうちから本を出してください』
と口説いたそうです。また、新入社員当時、赤いバラの束を持って石原慎太郎氏の事務所に挨拶に行った話も有名。
作家からすれば悪い気持ちはしないし、こうして見城氏は文壇に強固な人脈を築いていった」(出版社社員)
見城氏は常々、幻冬舎の朝礼で「編集者と作家は内臓と内臓がもつれあうように生きていかなければならないんだ!」
と檄を飛ばしているという。
もちろん、ハデな広告と話題性重視の出版戦略に業界では「商業主義に走り過ぎている」との批判もあるが、
「地方の流通に弱い幻冬舎が宣伝戦に打って出るのは当然。
営業と編集が責任のなすりあいをしている大手出版社では不可能なことを次々と実行している」(大手出版社社員)と評価する声もある。
一方、今回の“大博打”の背景には「1年前に創刊された幻冬舎文庫の一部が苦戦している。それをカバーするため『ダディ』
は成功させなければならなかった」(同)との声も…。
6月22日
荷風の「新橋夜話」は芸者衆の話ばかりですが,当時(明治末期)のカフェや待合いの様子がよくわかります
(カフェは今でいう喫茶店じゃなく,カフェバー兼キャバクラでしょうか^^;;)。その頃の銀座のカフェについては,中公文庫の「銀座細見」
(安藤更正)にも詳しく描かれています。とくにカフェ・プランタンの出来た経緯や,そこへ集まる文士連の話が面白く,荷風と辻潤がカフェ・
タイガーの二階で喧嘩した話も出ています。
6月19~21日
海野 弘「書斎の博物誌」はプルーストやメイラー,ゲーテなどの執筆部屋の様子のほか,机や万年筆の歴史など,
書斎の小道具について書かれたエッセイ集。「我が生涯の愛読書」などどズラズラリストを並べているのはいただけないけど,
コルク部屋のベッドの上で仰向けに寝たまま,枕にもたれることもなく「失われた時を求めて」を素早く書き続けていたプルーストの話など,
なかなか面白く書かれています。
6月18日
秋本 康「僕と彼女のレストラン」が文庫化されました。恋愛中の二人のレストランの選び方や食べ方から,
現在の関係や性格を判断するという,若者向けグルメガイドです。まあ,焼き肉食べてる二人は深い仲とか,
ハンバーグばかり食べている男はわがままとか,その辺は陳腐ではありますが,
恋人たちにとっては何を食べるかということは大きな悩みなんでしょうね^^;;。
私自身は,仏料理屋より寿司屋の方が敷居を高く感じます。東海林さだお氏曰く,
レストランのギャルソンと寿司屋のオヤジとホテルのボーイは,客を馬鹿にしようと待ちかまえている3大プロだから,
客の方が卑屈にならざるを得ない….確かに。
6月17日
蔵書印を押してある本は最近,あまり見かけなくなりましたけれど,鴎外が「渋江抽斎」(岩波文庫にもあります)
に興味を持った理由の一つとして,蔵印のことを書いています。
鴎外は歴史小説を書くために「武鑑」を蒐集していくうちに,抽斎の蔵印のあるものに少なからず行き当たり,そのうち上野図書館蔵の
「江戸鑑図目録」は渋江の稿本にして蔵印が押されてあるばかりでなく,抽斎云として考証を加えてあるのを見るや,
やがて渋江氏が抽斎であったことが判明し,ようやく抽斎探求熱が燃え上がって,史伝小説をまとめ,
この忘れられていた抽斎の名を世間に知らしめた,ということです(東大図書館には鴎外の手写したものがある由)。
国会図書館には抽斎の蔵書が漢籍,黄表紙など26点あるそうな。
6月16日
コーヒー好きなので,職場のデスクの上にも朝から晩まで,ほとんど切らしたことがないのですが,
コーヒー飲みの文学というのはどれくらいあるのでしょうか。酒飲みの文学なら,いくらでもあるのに。たしか木下杢太郎の詩に「モカ」
をうたったものがあったと思いますが,私が好きなのはマンデリンなんですね….。
荷風の作品にはカフェを舞台にしたものが多いですけれど,これはコーヒー飲みというわけではないですね^^;;。
6月15日
ルフェーブルの「1789年-フランス革命序論」(岩波文庫)を読みました。革命ファンというわけではないのですが,マティエの
「フランス大革命」とか「フランス二月革命の日々」,「フランス革命時代における階級対立」など門外漢ながらいろいろ読んできた中で,
このルフェーブルがいちばん面白く読めました。面白く….というのはわかった気にさせてくれる,という意味です^^。
もともとフランスの一般市民のために書いた啓蒙書なので,当然ではありますが。
6月12~14日
世の中,サッカー一色でなんだかなぁ,と思いつつ,やっぱり一日中サッカー観戦でした。まあ日本チームもよくやったけど,
完敗ですな….2対1なら接戦だけど,1対0じゃね。次は善戦を期待しましょう!
通勤途中でポツポツ読んでいたルナールの「博物誌」(岩波文庫)。かつて旺文社文庫で出ていたものの改訂版なのですが,
どうも私はルナールの面白さが分からない….「ぶどう畑のぶどう作り」も。チャペックの方が好きなんですね^^。子供の頃読んだ
「にんじん」をもう一度読み直してみれば,また違った感じを持つかもしれませんが。(airnetへずっとファイルが送れず???です)
6月11日
Columnに“文庫本の定義”を追加。
西村さんの午前零時で針を止めろ!
に「積ん読なんて怖くない」というコーナーができていました。買ったまま1カ月以上読まずに置いた本を「積ん読本」
と規定するようです。なるほど! 私の場合,見習って,ちょっと条件が緩いですが,
買ってから25年以上経過した場合を積ん読と認定することにしました。ダメかな?
6月10日
ここのところ,また荷風のふらんす物語など取り出して読んでいるのですが,荷風について石川啄木が巧いこと?言っています。曰く
「荷風氏の非愛国思想なるものは,実は欧米心酔思想なり….田舎の小都市の金持ちの放蕩息子が,1,
2年東京に出て新橋柳橋の芸者にチヤホヤされ,帰り来たりて土地の女の土臭きを逢ふ人毎に罵倒する。その厭味たっぷりの口吻其侭に御座候。
しかして荷風氏自身は富豪の長男にして朝から晩まで何の用もなき閑人たる也」。
6月9日
書皮友好協会の春日ありすさんが,書皮だけでは飽きたらず^^;;,本屋でくれるものならなんでも集めよう,
というホームページ本屋のさんぽ径をオープンしました。
栞はともかく,紙袋まで取っておく人というのは….恐れ入りました^^。
6月8日
ようやく完結した岩波文庫版「西遊記」。この翻訳裏話を訳者の中野美代子氏が「図書」6月号に書いています。20年ほど前,
中野先生の講義を聴いていた頃にも,翻訳不可能のところが多い,と言っていたような気がしますが,
今回の訳も軽妙に訳されているように見えながら,やはり「苦心の作」だったようです。先訳者の死去でピンチヒッターとして登場した今回,
いずれ「独自訳」が出るまでの暫定訳と割り切っているかもしれません….。
6月5~7日
本棚をごそごそやっていたら,父の古い文庫本が出てきました。中央公論社発行の「荷風文庫」というシリーズの一冊で「ふらんす物語」。
ハードカバーの変な文庫本なのです。昭和20年代の発行で,巻末を見ると,ほかに谷崎や漱石などもシリーズ化されていたようです。
ちょっと正体不明….くわしくはまた。
6月4日
図鑑タイプの(画がや写真が豊富な)文庫本もいろいろありますが,「アンナミラーズで制服を」(森伸之,双葉文庫)はその名の通り,
ファミレスや遊園地,ホテルなどのかわいい制服を集めたイラスト+マニアックなコラム満載。制服図鑑以来の森さんファンにとって
(私のこと^^;;),嬉しい本です。電車の中で読んでると,ちょっと誤解されそうな感じもしますが….。
6月3日
書皮友好協会より,
「書皮報31号」が届きました。ありがとう。書皮ではないのですが,雑誌などを入れてくれる書店の袋ね,
だいたい出版社の宣伝入りだったりするけど,一度,
ベートーヴェンやブラームスなど作曲家の似顔絵がたくさん描かれた袋を貰ったことがありました。そのとき買った雑誌は「レコード芸術」で,
袋はFM雑誌かなにかの創刊記念?だったような気がします。20年も前のことなので,定かでありませんが….。
6月2日
山本夏彦「私の岩波物語」(文春文庫)を読むと,実際に「岩波書店の歴史」などが書いてあるのはほんの一部。残りは出版・
印刷に関わる裏話で,こちらが面白い。文庫本に関しては,「中央公論と改造そして文庫」の項で簡単に触れているだけですが。
岩波の大番頭だった小林勇のことをこれだけあからさまに書いたものは他にありません。
6月1日
五味康祐「癒しと純愛のクラシック入門-ベートーヴェンと蓄音機」(角川春樹事務所)
は文庫本の範疇に入るのかどうかわかりませんが,幼い頃,ベートーヴェンの「運命」に惹かれるか,モーツアルトの「ト短調」
に惹かれるかで,その後の音楽の指向がきまるとし,ベートーヴェン派は”貧しい”人が多い,とのこと….。
私はバリバリのベートーヴェン派だったから,やっぱりね^^;;。名曲喫茶での淡い恋の想い出など,一刀斎先生,
なかなかロマンチックで嬉しい本です。