宇野浩二「蔵の中・子を貸し屋」

「同時代の作家たち」(広津和郎)を読むと,宇野浩二が菊池 寛に「僕のが大阪落語なら,君の”恩讐の彼方”は新講談ではないか!」と抗議の葉書を出した,という話が出ています。
これは岩波文庫にも収録されている宇野の「蔵の中」を,菊池が「大阪落語のような….」と評したことによります。この際,大阪落語….というのが非難に当たるかは別として,「蔵の中・子を貸し屋」は宇野の巧い語り口に乗せられてしまいますね。
蔵の中・・・ありとあらゆるものを質入れしてしまう「私」は,質屋の利息だけはきちんと払い,所有権だけは手放さない。金が入ると,それを請け出せばよいものを,結局新しい着物を買ってしまい,これも当然質入れされる。ついに質屋の蔵の中に,「私」の着物専用の箪笥までできる始末。そしてこれを虫干しするために蔵の中に入るわたしだが….。
子を貸し屋・・・ひょんなことから,亡き相棒の子の面倒を見るようになった貧しい団子屋の佐蔵のところへ,近くの銘酒屋の女が,大枚の金を払って,その子を借りにくるようになった。しだいに,他の銘酒屋の女達からも,子貸しを頼まれるようになり,団子屋より子貸しで儲ける佐蔵。その繁盛ぶりを見て,わざわざ子供を連れて売り込みにくる母親まで出る始末。果たして金で子供を借りにくるその訳とは….。
たしかに落語調ですな….。