「文庫本 雑学ノート」(ダイヤモンド社,1998年9月刊)は,久々に出た文庫本マニアのための蘊蓄本。著者岡崎武志氏は,先に出た「文庫本大全」の編者をつとめたほか,週刊誌の読書コラムを担当するフリーライター。自ら文庫王と名乗るマニアックな人だ。
本書は文庫本の歴史に簡単に触れた上で,文庫化されていない名作,文庫本解説のいろいろ,文庫目録を読む,消えた作家,スピンと栞,文庫本のカバー,文庫本専用本棚など,文庫本についての「雑学」をまとめており,「文庫本そのすべて」が基本データ集ならば,こちらは応用編というところ。
とくに力を入れているのは,文庫本につきものの解説と新旧各社の解説目録比べで,40ページほどを充てている。古い解説目録を集めている人は多くないと思うが,絶版・品切リストの載っている目録は少ないので,それを地道に調べるには古い解説目録を手に入れておく必要がある。本書では,かつての売れっ子作家が,あっさり文庫から消されてしまった様子をレポートしている。仁木悦子が一点も残っていないなど,初めて知って驚いた。昭和5年に出た岩波文庫の最古?の目録もちゃんと載っている。
岩波文庫はあまり多くふれていないが,角川,新潮,朝日ソノラマなど,とくに日本の文学作品には,なかなか詳しく,絶版文庫や復刊文庫の情報も充実しており,角川のリバイバル復刊のリストもある。書影も豊富で,懐かしい表紙がいくつかあった。この手の本では,タイトルばかりずらずら並べてブックガイドと称するつまらないものも多いが,本書はオリジナルなデータをうまく取り入れて,文庫ファンなら誰でも楽しめるものとなっている。