金魂巻の文庫化

金魂巻―現代人気職業三十一の金持ビンボー人の表層と力と構造
渡辺和博の「金魂巻」が筑摩書房より文庫化された。中年男には懐かしい本だが,元本が出版された1984年はバブル景気の直前,社会人になったばかりの私も,高度成長の波に乗って何となく浮き足立っていたなぁ,と今になって思う。

本書は,カメラマン,モデル,デザイナー,医者,レーサーなど31の職業別に(女子大生というのもあるが),金持ち(マル金)と貧乏(マルビ)の違いがどこにあるかを,その生い立ちやライフスタイルなどから面白おかしく解説したもの。マル金,マルビは当時の流行語になった。よくある職業間の格差や,都会と地方との格差ではなく,流行のカメラマンにもマル金とマルビがいるんだ….という視点が面白い。でも本書を読んで,そのマルビぶりに,格好つけてバッカだなぁなどと笑えたのも,一億総中流といわれながら,まだまだ未来に希望がある時代だったからだと思う。

いまの若い人が本書を読むと,マルビといいながらもずいぶん楽しそうじゃない,俺なんかマルビにもとうてい及ばない生活だ….と考えるかもしれない。だって,マルビも自分なりのライフスタイルをみんな持っているから。ただの貧乏じゃない。マルビにもなれない自分・・・。いや今の時代,マル金は六本木ヒルズあたりにわずかに生息しているが,マルビはとうに絶滅種となってしまったのかも。それなら,いまからなりたくても無理な話だ。

先のホイチョイプロダクションの「気まぐれコンセプト」をはじめ,最近この時代のライフスタイルを描いた本の復刊が目立つ。お父さんが若かった頃の世の中は・・・という興味で読むのも結構だが,あのとき中流だったはずのお父さんが,結局はマル金にもマルビにもなれず,バブルの波に押し流されてくたびれた中年男になっていたとしても,生暖かい目で見守ってあげて欲しい。ちなみに,著者渡辺和博さんは2007年に56歳で肝臓がんのため逝去されました。