2002年4月

4月12~14日
岩波文庫新刊「雍州府志―近世京都案内」(上)を読む。1684年に歴史家・黒川道祐がまとめた山城国(京都府南部)の地誌。雍州は,唐の都長安のあった州名で,それに比して都のある地の意。道祐は洛中洛外を実地踏査し,京都とその近郊の地理,寺社仏閣,土産物,陵墓などをつぶさに調べ,この「京都百科事典」を完成させた。上巻には概説と神社,寺院の部を収録。文庫以外では,臨川書店版(1997年,6500円)あり。
4月11日
岩波文庫新刊「みなかみ紀行」(若山牧水)を一気に読む。大正期,利根川の源を訪ねて,長野県・群馬県・栃木県を巡った旅の記録。歌を詠みつつ,鄙びた温泉を訪ね歩くと,土地の人々との出会いがあり,酒と友がいる。その健脚振りと,ときには酷い目に遭いながらも,それも旅の楽しみとする牧水の大らかさに感心。かの地では,いまでも牧水ゆかりの温泉を名乗っているところは多い。中公文庫からも出ている「みなかみ紀行」については,旅のホームページも参考になります。
4月10日
新刊「書斎曼陀羅-本と闘う日々」(全2冊)を読む。講談社「インポケット」に連載された磯田和一さんによる作家の書斎訪問記をまとめたもの。本棚だけでは足りずに,床にも本を立て置きして敷き詰め,その上をこわごわ歩かされる家や,窓も階段も本で塞がれてしまった素敵な洋館だったはずの家,ドア代わりに本棚を目かくしにしたトイレのある書斎,グランドピアノの上や下まで本が詰め込まれ,鍵盤の蓋を開けることさえままならない家など,精緻なイラストと作家本人への聞き書きでリアルに再現していて面白い。
乱雑さには自信がある我が家の書棚も,これに比べれば,まだまだ子供の本棚みたいなもの….。
4月9日
以前は,新入学シーズンといえば,小学生は新しい鉛筆,中学生や高校生は新しい万年筆(中学一年生なんていう雑誌を年間購読すると,かならず万年筆のプレゼントなどありましたね)と決まっていた。最近は,普段万年筆を使っている中学生など希少だろうし,小学生でもシャープペンの方が多いかもしれない。それでも小さい子のいる我が家では,まだ鉛筆がメインだ。そんな鉛筆の歴史を要領よくまとめている文庫本として,「文房具の研究」(中公文庫)がある。黒鉛の棒をそのまま使っていた時代から,近代工業による大量生産に至るまでの技術の進歩,ファーバー・カステルやステッドラー,三菱など,著名なブランドの歩み。日頃身近にあって「こだわり」とは無縁の鉛筆にも,さまざまな蘊蓄があることが分かり面白い。日本で鉛筆の生産が始まったのは,意外に遅く明治20年代であることもわかる。もっとも,我が家での鉛筆のブランド名は,いまのところ遊戯王やポケモンだったりするわけですが….。本書の後半には万年筆の話題もあり。
4月8日
岩波文庫「耳嚢」が今月復刊されます。耳嚢(みみふくろ)は,根岸鎮衛が,天明から文化にかけて30余年間に書き継いだ随筆集で,2000を超える奇談・雑談を集録したもの。要は江戸時代のスリラー,ゴシップ集だ。根岸鎮衛は南町奉行も勤めた旗本で,自然と話の中身も武士階級のものが多いが,医術,とくに痔に関するものもあり,なかなか感心?させられる。
当時の世相を知る上で貴重な文献であることはもちろん,(スイスイと読めないのが残念であるが)怪談ものとして楽しめる。耳嚢はもともと,著者の個人的な記録だったようで,門外不出とされていた。しかし,その面白さが徐々に世間に広まり,いくつもの写本が生まれ,我々も岩波文庫で気軽に読めるという次第。
4月4~7日
新入学シーズンということで,電車も混むし,何かと気忙しい感じですが,日中は26,7℃まで気温も上がり,はやくも初夏の陽気。これからが,私の季節?であります。毎日新聞社は,昨年10月に創刊したばかりの雑誌「ヘミングウェイ」を4月4日発売の4月18日号で休刊。食,旅,住まい,カルチャーなど,50歳代の中高年層向け情報誌で月2回の発行でしたが,編集部のご挨拶によると,『「ゆとり趣味生活情報」をスローガンに,読者の皆さまに楽しんでいただける誌面づくりに力を注いでまいりましたが,諸般の事情により本号(4月18日号)をもちまして一時休刊させていただくことになりました。まだ詳細は未定ではございますが,現在,『ヘミングウェイ』の理念をさらに純化させた新雑誌の刊行を検討しております。再び皆さまとお会いできることを楽しみにしております。』とのこと。
年齢的にターゲットでない私は,ちらりと覗いただけですが,たしかに適当な記事の寄せ集めで,これでなければいった魅力はなかったように思いました。ヘミングウェイといえば,「4本のヘミングウェイ」という本がお薦めなのですが,それはいずれまた。
4月3日
創元ライブラリの新刊「文豪春秋」(いしいひさいち)を読む。文壇の長老,有名ではあるが売れない純文学作家・広岡達三を主人公とする四コマ漫画集。「わたしはネコである」と「わたしはネコである殺人事件」からセレクトし,未収録を若干加えたもの。原稿とりに必死の文学春秋社の編集者ヤスダ君や,のんきでとぼけたお手伝いさんとの掛け合いが面白く,頑固で偏屈な作家の日常がよく描かれている。いしいひさいち情報は,問題外論で。
4月2日
新刊「ザ ワークス オブ 書斎館―東京・南青山書斎館から始まるラグジュアリー・ペンの新時代」を読む。その名の通り,青山にあるアンティーク文具の専門店「書斎館」を紹介したもの。一つのステーショナリー・ショップがムックになってしまうのも驚きだが,万年筆やインクビン,雑貨など,眺めているだけでも楽しい本。
4月1日
最近は,出張がしばらく続くと,子供あてに手紙を出すことにしている。元気でやっているか,お母さんの言うことをよく聞きなさい,などと他愛もないことを,その土地の絵はがきに書くだけだが(まだ漢字が読めないのだから),それでも,自分宛の手紙がくると,結構喜んでいるらしい。いま普通の親子がどれだけ手紙のやり取りをしているか分からないが,私は父が外国航路の船乗りで,年に一度しか帰ってこないような人だったので,子供の頃よく外地から手紙を貰った。ある程度年齢がいくと,またこんなこと言ってらぁ,などと感じてはいたが,自分が父親になってみると,これも父にとって一つの楽しみだったのかなぁ,と思う。