ドリトル先生問題

この週末は天気が今ひとつで残念。ドリトル先生問題のその後….。
『故井伏鱒二氏の翻訳で親しまれてきた「ドリトル先生物語」の「差別的表現」が議論になっている。岩波書店は昨年9月,最新の「岩波少年文庫」版に「ニガー川」「つんぼ」など黒人や障害者への差別表現があることを市民団体に指摘され,回収を求められた。担当者が見落としたためらしいが,岩波書店は「故人の作品の根幹に手を加えることは,適切な態度とは思えない」と回収せず,読者へのお断りで対応することを決めた。
「ドリトル先生」は,動物の言葉を話せる医師が,動物とともに繰り広げる物語。岩波書店によると,英国出身の作家ヒュー・ロフティングの原作を井伏氏が翻訳し,51年に「ドリトル先生アフリカゆき」を刊行した。その後も刊行を重ね,全12巻の全集版と,文庫版にまとめ,00年に新版の文庫版を出した。
市民団体「黒人差別をなくす会」が点検したところ,「めくら」「気ちがいじみた」などの表現が約100カ所見つかった。アフリカ西部を流れるニジェール川を,黒人を蔑視(べっし)する「ニガー」という言葉を使って「ニガー川」と表記した部分も23カ所あった。原文そのものに,そのような表現があった部分もあるが,井伏氏の翻訳で「差別的表現」になったところもあるという。ニガー川については井伏氏の誤訳とみられ,次の印刷時点で改める。
すでに全集,文庫版合わせて約4万冊(2001年10月時点)が市場に出回っている。岩波書店は協議の結果,本は回収せず,「ニガー川」以外の表現については,改めるかどうかを検討するという。その代わり,この作品が掲載されている全集や文庫版に,「読者のみなさまへ」と題する文書を差し込む。
文書では,侮辱されたと感じる人がいる以上,「その声に真剣に耳を傾ける」と断ったうえで,「故人の作品の根幹に手を加えることは,古典的な文化遺産をまもっていく責務を負う出版社として賢明ではない」ともしている。時代を超えて読みつがれる作品の場合,時間とともに読者が表現に違和感を持つことは少なくない。手を入れるべきかどうか,どういう表現がふさわしいのか,悩むこともあるという。
これに対し,黒人差別をなくす会副会長の有田利二さん(大阪府堺市)は「ドリトル先生シリーズのこれまでの改訂でも差別表現を別の表現にかえてきた。問題があることは知っていたはずだ。子ども向けの本には細心の配慮をすべきなのに,問題に気づいていながら出版を続けてきた姿勢に強い憤りを感じる」と話していた。(朝日新聞より)
ちなみに,ニジェール川の語源は,遊牧民ツアレグ族により,この川がニエジーレンn’egiren「川」,またはエジーレンegiren「川」と呼ばれていたことによる。これがフランス人に伝えられ,ニジェールと転訛した,とのこと(牧英夫編著「世界地名ルーツ辞典」)。