殺人犯の美しい手記 ピエール・リヴィエール

ピエール・リヴィエール---殺人・狂気・エクリチュール (河出文庫)
ミシェル・フーコー
河出書房新社
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河出文庫からミシェル・フーコー「ピエール・リヴィエール-殺人・狂気・エクリチュール」が出る。

1835年6月3日,フランスの小さな農村で20歳の青年が妊娠中の母親,18歳の妹,8歳の弟を殺害するという事件が起こった。当時のフランスではこの事件が大きく取り上げられ,彼が精神異常であったかどうかについて,精神科医はもとより,マスコミでも様々な意見が戦わされた。そして犯人ピエールは,鑑別所で生い立ちと,殺害の状況,その後の行動について,詳細な手記を執筆した。裁判では死刑が決定するが,国王の恩赦が下り終身刑に減刑となる。しかし結局,ピエールは独房で首を吊って自殺してしまう。

この事件は,当時誕生期にあった精神病理学が注目を集めるきっかけになった。従来のフランス刑法では,狂気がはっきりと現れていれば犯罪とならなかったが,逆に,それが現れていなければ,精神異常は減刑の理由とはならなかった。しかし1832年の刑法改正により,情状酌量が認められるようになり,精神異常者の減刑が可能となった。そうなると,何をもって精神異常と判断するのかという課題が生じた。新しい精神病理学が問題にしているのは,本人が意識していないが理性を超えたところにある意識だ。

とりたてて学も無かったはずの犯罪者が書いた長く魅力的な手記。この手記についてフーコーは,「テクストの美しさに,彼が正気である証拠を(すなわち死刑を宣告する証拠を)見いだす人も,狂気のしるしを(すなわち彼を終身監禁する理由を)見いだす人もいるだろう」と言っている。