「雪国」は大人の小説

雪国 (岩波文庫)
雪国 (岩波文庫)

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川端 康成
岩波書店
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夏休み,中学校,高校ではどんな本を生徒に読んで欲しいと思っているのか….ということであちこち見てみると,川端康成の「雪国」が推薦図書になっているところが結構あった。

「雪国」ですよ….「伊豆の踊子」や「抒情歌」ならともかく。冒頭の『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった』が有名なのはわかるけれど,そのあと,本当に読んでいるのかなぁ。『島村は退屈まぎれに左手の人差指をいろいろに動かして眺めては,結局この指だけが,これから会いに行く女をなまなましく覚えている,はっきり思い出そうとあせればあせるほど,つかみどろろなくぼやけてゆく記憶の頼りなさのうちに,この指だけは女の触感で今も濡れていて,自分を遠くの女へ引き寄せるかのようだと,不思議に思いながら,鼻につけて匂いを嗅いでみたりしていたが,ふとその指で窓ガラスに線を引くと,そこに女の片眼がはっきり浮き出たのだった。彼は驚いて声をあげそうになった。』

渡辺淳一なんかよりずっとエロい露骨な表現だけれど,大人にはこの指の感覚はよくわかるから,巧く書かれているなぁと思うのだが,中学生にこれを頭で理解しろといっても無理だろう? 「雪国」にはこのあとも島村と駒子の微妙な心の駆け引きが描かれているので,そういう経験が全く無いと,単なる偉いノーベル賞作家の書いた退屈なオッサン小説で終わってしまうかもしれない。

もし不覚にももう読んでしまった中高校生がいたら,ずっと大人になったときに再読を勧めます。あのとき何を読んでいたんだろうと思うこと必至ですから。