岩波文庫の新刊井伊直弼「茶湯一会集・閑夜茶話」を読む。
大老井伊直は若い頃から茶湯に傾倒し,茶会に相対する主客の心得を記した「茶湯一会集」と様々な茶書からまとめた蘊蓄集「閑夜茶話」を著した。一会集の冒頭は,『この書は,茶湯一会の始終,主客の心得を委しくあらわすなり,故に題号を一会集という。なお,一会に深き主意あり,そもそも,茶湯の交会は,一期一会といいて,たとえば幾度同じ主客交会するとも,今日の会にふたたびかえらざる事を思えば,実に我一世一度の会なり,去るにより,主人は万事に心を配り,・・・』という調子で読みやすい。もっとも,本文は具体的な作法が詳細に書かれているので,茶道の心得のある方なら興味のあるところだろうが,門外漢には,それぞれの所作がユニークなものなのかどうかなど脚注が頼りだ。
本書は自筆本を底本としているが,巻末の解説には肝心の本書の成立事情や現在の茶道界における意義が書いていないので調べてみると,本書が執筆されたのは安政5年(1858)と考えられ,桜田門外の変の2年前とのこと。
なお,本書は平凡社東洋文庫の「日本の茶書2」(1972)に別の編者で収録されている。