押絵と旅する男

江戸川乱歩全集 第5巻 押絵と旅する男光文社文庫江戸川乱歩全集の新刊「押絵と旅する男」を購入。押絵と旅する男,蟲,蜘蛛男,盲獣の4作を収めている。懐かしい作品ばかり。
日本海に浮かぶ蜃気楼の妖しい描写『生まれてはじめて蜃気楼というものを見た。はまぐりの息の中に美しい竜宮城の浮かんでいる,あの古風な絵を創造していた私は本ものの蜃気楼を見て,膏汗のにじむような,恐怖に近い驚きにうたれた』から始まり,列車の中での不思議な旅の男との出会い。
『私は,四十才にも六十才にも見える,西洋の魔術師のような風采のその男が,だんだんこわくなってきた。こわさというものは,ほかにまぎれる事柄のない場合には、無限に大きく、からだじゅういっぱいにひろがって行くものである。私はついには,産毛(うぶげ)の先までもこわさにみちて,たまらなくなって,突然立ち上がると,向こうの隅のその男の方ヘツカツカと歩いて行った。その男がいとわしく,恐ろしければこそ,私はその男に近づいて行ったのであった』
その男は風呂敷包みにした大きな額絵を抱えていた。
『その背景の中に,一尺ぐらいの背丈の二人の人物が浮き出していた。浮き出していたというのは,その人物だけが,押絵細工でできていたからである。….緋鹿の子の振袖に黒繻子の帯のうつりのよい,十七,八の水のたれるような結い綿の美少女が,なんともいえぬ矯羞を含んで,その老人の洋服の膝にしなだれかかっている,いわば芝居の濡れ場に類する画面であった』
まるで生きているような二人の姿。その絵に秘められた不思議な因縁話とは。最初に読んだのは学生のころだと思うが,本作は,乱歩の作品の中でも,とくに印象に残っているものです。
※乱歩と浅草に関する考察は乱歩の浅草/浅草の乱歩を参照。

コメント

  1. リアル「押絵と旅する男」@目玉探しのつもりが…

    アクティブ・イマジネーション開始: 前回のアクティブ・イマジネーションで失った目玉を探しに、盟友ミーシャくんと、いざ谷底へ! 肩に乗せたミーシャくんが石の像に変…

  2. はじめまして
    TBさせていただいた者です。
    申し訳ございません、なぜか3つもTBされてしまってます。
    ご迷惑でしょうから、余分なTBを削除していただけますでしょうか。
    お手数お掛けいたします。

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