光文社文庫乱歩全集で残っていた「盲獣」を読む。昔,映画でも見たやつですね。美しい女性ばかりを狙い,暗室に連れ込んでは陵辱の限りをつくし,やがてバラバラに切り刻んでしまう狂気の盲人の話。最初は恐れおののいていた女性も,その男の異様な触覚とテクニックにより,次第に妖しい世界に引き込まれていってしまう。
本書中,『この世には,目で見る芸術,耳で聞く芸術,理知で判断する芸術などのほかに,手で触れる芸術が存在して然るべきである』として,「触覚芸術論」なる主張が出てくる。その辺までは,感覚的についていけるが,あとは相当に悪趣味で,「鎌倉ハム大安売り」,「芋虫ゴロゴロ」といった気持ちの悪い場面が多い(初版以降の版では割愛されているところもある)。
ミステリーというには仕掛けがなさ過ぎる。乱歩自身もグロテスクなだけの失敗作と考えていたように,ばかばかしい!と笑い飛ばすにしても,後味の良い作品とはいえない。