高橋輝次氏の「古書往来」に,元島根新聞編集局長・加藤千代三氏の一周忌に合わせた追悼出版「昭和前史の人々 ふるさと慕情」(2001年)という本の紹介が出ていた。
加藤氏は明治39年生まれ。藤村の推挽で岩波に入社,岩波文庫の創刊に携り,後に新潮社に入り新潮文庫の創刊にもあたった。戦後は郷里の島根に帰り,新聞社の主筆や文化運動で活躍した。
『本書の前半の「昭和前史・・・」が編集者時代の回想であり貴重だ。岩波文庫創刊時の様子が社内の動きとともに描かれている。中でも「新訓萬葉集」の編集中,訓読者の佐佐木信綱氏から秘蔵の古写本を校閲用に拝借して編集部の金庫に収めていたが,ある朝金庫をあけると,古写本が真っ赤なインクに染まり,崩れていたという事件も正直に綴られている。』