川端康成といえば,先頃眠れる美女に触発されたガルシア・マルケスの新作が出るとの話がありましたが,「文豪ナビ」にも「眠れる美女」のダイジェストが載っています。
強い薬で眠らされた若い娘と添い寝が出来る秘密の宿。そこに通う「安心できるお客さま」である老人….。これだけだとイメクラにはまった老人の話のように思えてしまいます。いや,深いところでは,同じなのかもしれませんし,老いの悲しみと言ってしまうと,あまりに通り一遍な気がします。もう少し歳をとればはっきりするのかも。
電子文藝館に掲載された川端担当の編集者,伊吹和子氏の思い出話より
『「眠れる美女」は36年11月号の「新潮」掲載で完結したが,同じ月の「中央公論」に,谷崎先生の『瘋癲老人日記』の連載が始まっている。・・・これは全くの私の想像だが,もしかすると,谷崎先生の「瘋癲老人日記」の構想は,「眠れる美女」を途中まで読んだ段階で,かねて温められていたものが触発されて,形をなして来たのではないだろうかと思うのである。』
『「眠れる美女」は,37年度の毎日出版文化賞を受賞し,ドナルド・キーン氏は,「瘋癲老人日記」より高く評価しておられるが,当時の世評は逆であった。川端先生は,自作の評判がよくなかったにもかかわらず,たいして気にかけておられる様子はなかった。そして「瘋癲老人日記」を絶讃され,谷崎先生はそれを無邪気に喜んでおられるふうであった。』
『「瘋癲老人日記」への称讃の言葉はそれとして,川端先生には,内心この小説と比較しての,「眠れる美女」へのかなりの自負があったことは想像に難くない。「僕はまだ瘋癲老人じゃありませんよ。あんなにはなっていませんもの。谷崎さんは前から大分そうですけど」と,眼を光らせて悪戯っぽく笑いながら言われたことがあった。』