岩波文庫「女中たち・バルコン」(ジャン・ジュネ)。
1995年白水社より出た「女中たち バルコン ベスト・オブ・ジュネ」(渡辺守章訳)の改訂版。「女中たち」は以前、訳者の演出により本木雅弘主演で上演された。
ジャン・ジュネは、1910年パリ生まれ。母は売春婦で、父は不詳といわれている。幼い頃から犯罪を繰り返し、15歳のときに感化院送りとなる。1942年中央刑務所に投獄された際に、詩集「死刑囚」を自費出版、1944年には「花のノートルダム」、「薔薇の奇蹟」を出版し、ジャン・コクトーに認められる。同年終身禁固刑の求刑を前に、コクトーらの尽力により解放され、1947年「女中たち」を執筆。1948年コクトーやサルトルらの請願により、大統領恩赦を獲得。バルコンは1956年の作品。政治活動家としても知られている。
「女中たち」の登場人物はふたりの女中と奥様。女中たちは、毎夜ひとりが奥様役、ひとりが女中役となり、「奥様と女中ごっこ」に興じていた。それは次第にエスカレートし、警察への偽りの密告、それによる主人の逮捕、発覚を恐れての奥様殺害計画へと進んでいく。しかしそれも未遂に終わり、悲劇的な結末を迎える。
「バルコン」は、今風に言えばコスプレ高級娼館である「幻想館」での騒動。娼館は王宮に向い合って建ち、バルコニーの華麗さを競い合っている。地位や身分を隠して快楽にふける男女。ときは革命前夜で市内は騒然としている。そこへ娼館のパトロンで女主人の愛人である警視総監があらわれ、店の客たちをつかって、革命鎮圧の芝居を打つことに。ふざけたお話なので、1960年ピーター・ブルックがパリ初演にこぎつけるまでいろいろな上演妨害があったという。
本書には、ジャン・ジュネの詳細な年譜がつけられている。
参考リンク
・Wikipedia ジャン・ジュネ
・志紀島啓 blog ジャン・ジュネ巡礼