岩波書店
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「新しい御馳走の発見は、人類の幸福にとって天体の発見以上のものである。」- ブリア・サヴァラン –
「岩波文庫の食の本」で,肝心なサヴァランが抜けてしまった。これだけ別に一項を設けよう!という特別の思い入れがあったわけではなくあのドラマ「王様のレストラン」とのからみで何か書こうと思いつつ,ビデオを見ていて、やっぱり山口智子はいいなぁ,などといっているうちに忘れてしまったのだった。
美食家サヴァランは、いまではケーキの名として親しいが,このケーキは別にサヴァランによって考案されたわけではない。スポンジに,ラム酒とシロップを含ませ,表面にアプリコットジャムを薄くコーティングしたフランスの伝統的な菓子サヴァランは,ポーランド王レクチンスキー公付きのシェフ,シュブリオにより考案され,はじめ公によって,アリ・ババと名付けられた。その後19世紀初頭には宮廷に仕えていた職人ストレールがこれを一般に広め,さらに1840年,オーギュスト・ジュリアンが改良を加え,当時の有名な美食家にちなんで,ブリヤ・サヴァランと名付けたのだ。
本書の著者ブリア・サヴァランは,あらゆる学問芸術に通ぜざるなく,その上,詩も作曲も,時には粋な小唄の一つも歌おうという,こういう人物が学殖蘊蓄を傾けて語る“料理の芸術”と言えば,この名著の内容をほぼ御想像いただけるだろう。(解説目録)
こういう人間と一緒に食事して,楽しいかどうかはともかく,「美味礼讃」(原題・味覚の生理学, 英語ではThe Physiology of Taste)は読んで楽しくためになる本だ。その学問的な蘊蓄を語る部分で,博識ぶりを見せつけながらも,皮肉とユーモアをw忘れない。あしたの夕食づくりには向かないかもしれないが,当時の流行の料理のレシピも興味深い。彼にとって人生すべてが、食べることの楽しさに結びつけられているのだ。
本書の最後に,さまざまな食の思い出を記したヴァリエテ(雑録)がある。その亡命時代の思い出の章にアメリカの項があり、その内容は「・・・・・・」空白。
訳者は「どういうわけか原書には標題だけあって本文がない。別の場所に発表するつもりなのか,さしさわりを考えて削除したのか」といっているが ここは「言うべきことがない」っていうことなんじゃないかしら….。
まあ,美食家と呼ばれるには腹周りも懐具合も貫禄不足だが,せめてサヴァランでも食べながら「王様のレストラン」を見ることに,….いや違った「美味礼讃」を読むことにしようか。