サイバネティックス(ウィーナー)

ウィーナー サイバネティックス――動物と機械における制御と通信 (岩波文庫)
ノーバート・ウィーナー
岩波書店
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岩波文庫ファンには親しい「人間機械論」。18世紀フランスの医師ド・ラ・メトリにより、「人間の精神が脳という物質の働きにほかならない」ことを論証し、当時の宗教界に激しい憎悪の嵐をまきおこした歴史的な書であった。

今月の新刊「サイバネティックス-動物と機械における制御と通信-」も、かつて「人間機械論」と呼ばれたことがある。第二次大戦後にアメリカの数学者ウィーナーが、動物が環境に対応しながら自ら最適な動きを選び、体をコントロールするように、機械も自ら得た情報をフィードバックしながら自らの動きを制御するという自動制御の概念を示したもので、以後、情報科学や生物学、社会学など多くの分野に影響を与えてきたエポックメイキングな書である。

いま、われわれの周りにある機械の多くは、フィードバックによる自動制御が行われており、エアコンのセンサーによる温度調整や電子レンジ、洗濯機、環境ノイズを軽減するヘッドフォンなどなど、賢い機械と言われるものは、自ら状況を判断し、行動方針を定める一種の知能ロボットである。あまりにも当たり前すぎるので、そのような概念が、わずか70年ほど前に出てきたということに、今の人は違和感を感じるかもしれない。しかし、機械だけでなく、社会システムの研究にもサイバネティクスの概念はますます重要になってきている。

ウィーナーのサイバネティックスは、50年ほど前に岩波書店から出た池原訳を、今回の文庫化にあたって全面的に見直したもの。難易度は高いが、挑戦してみる価値のある本だ。