ある本を「文庫本」と呼ぶとき,それは内容を示す場合と,判型を示す場合の2通りがある。
わざわざ内容というのは,流行作品の大量販売を目的とした米国のペーパーバックスと異なり,我が国の文庫本が古典的作品の廉価版という特殊な事情から発生したためで,文庫本は単なる安物ではなく,”優れた作品”をいつでも手に入れられるように,という立派な目的を持っていたからである。実際,辞書にも「安価に名著を普及するために同一の判型,装丁で続けて発刊される小型の本」と定義されている。しかし,ご承知のように,現在の大部分の文庫本は,内容については全くペーパーバックス化しており,唯一の共通点は,その判型(サイズ)のみとなってしまった。ちなみに、米国のペーパーバックス(110x178mm)はハードカバーの対義語だから、日本では文庫だけでなく、新書や雑誌もこれに含まれることとなる。
一般に文庫判とは、A6サイズを指す。A判とB判の違いは、A判が面積1平方メートル、縦横比1:ルート2のものを基本として、これをA0と呼び,順次その長辺を半裁していったものをA1からA12とするのに対し、B判は面積1.5平方メートルのものをB0としている点だ。よって、文庫判A6は105×148mm。一般の書籍A5は148×210mm(医師は太る)、B6は128×182mm(人には言わじ)となっている。
そもそもこの文庫判のルーツは,江戸時代の袖珍本に遡るが,明治後期に袖珍文庫や立川文庫が発刊されたことで一般的になった。このときの判型は四六半截だから94x127mmで,今のものよりやや小さい。戦前の岩波文庫は菊半裁109x152mmで,やや縦長の判型だったが,戦後刊行された文庫本は、ほぼA6判で統一された。
(1998年6月11日記事を改訂)