20年近く前に購入した反町茂雄「一古書肆の思い出」(平凡社)にシミが見えてきたので,とりあえず乾燥させてから薄いポリ袋で埃よけをしました。
反町茂雄氏は平成3年に逝去されたので,若い人には馴染みがないかもしれませんが,古典籍を扱う古書肆(古書店)「弘文荘」の主人として,簡単に言えば,我が国で一番高い本の売り買いをしていた人,ということになります。
弘文荘で扱った古書・古文書は,国宝,重文級のものも多く,普通の古本というイメージからは(価格の点でも)かけ離れていますが,戦前戦後を通じて稀覯書の発掘と研究に打ち込んだ反町氏の思い出話は,とにかくスケールが大きく面白いものばかりです。
反町氏は明治34年長岡市に生まれ,東京帝大卒業後,神田一誠堂の店員となりますが,当時の古書店員は丁稚奉公の小僧さんばかりという時代でしたから,異色の卒業生として帝大の新聞にも取り上げられるなど話題となったようです。生来の学問好きゆえ,すぐに頭角を現し,30歳で独立,弘文荘を開業。主要な客は,財閥の当主や地方の素封家,大学の先生などでしたが,自らも数多くの古書,資料の調査に携わり,国宝級の新発見も多数あり,古典籍の権威として知られました。
本書は全5巻。平凡社ライブラリより軽装版も出ていますので,古書に興味のある方には必読書としてお薦めします。
コメント
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初めまして。
僕は、平凡社ライブラリー版で読みましたが、あのときの感動がよみがえりました。
ありがとうございます。反町翁のなかでの商売と学問のバランスが面白く感じました。