幻冬社文庫とハルキ文庫

リカ
今年の文庫本界の話題は全般的な売り上げのダウンで,景気の悪いものばかりだったようだが,そんな中,幻冬社文庫,ハルキ文庫の創刊が話題となった。
ともに望む・望まぬの違いはあるが,角川を飛び出した元編集者※と元社長がつくった文庫。文庫戦争とはいうもののかつてのバブル景気とは違い,厳しい生き残り戦争となっている現在,これら新参文庫の登場はどれだけの意味があったのだろうか。
幻冬社文庫のセールスポイントは,「ジーンズのポケットに入りやすくするため幅を5mm縮め,目に優しい赤みがかった紙を使用した」ということだが,書店でこれに気づく人はいるかどうか。幅が縮んだとしても,嵩張って歩きにくいのでジーンズに文庫本を入れるのは難しい。幻冬社が60ページ以上のものはつくらない,というのなら話は別だが。
そもそも4年前にできた幻冬社自体,”出版界の風雲児”といわれながら,代表作が石原慎太郎『弟』や唐沢寿明『ふたり』というのだから,文庫化される作品も大方想像がつくというもの。それでも私は,幻冬社文庫を2冊だけ読んだ。マッキントッシュ・ハイDOS/Vブルースを….。とりあえず,意気軒昂な幻冬社社長・見城徹氏の「これは,事件になると思いますよ」発言にもかかわらず,
いまのところ文庫界に事件は起きていない模様だ。
ちなみに,見城氏の作家攻略法は,作家との結びつきを強固にすることで,「五木氏がサイン会を行ったとき,見城さんは最後尾に並んで順番を待ち,客がだれもいなくなってから『実は角川書店の編集者ですが,お邪魔してはいけないと思い,最後にご挨拶させていただくことにしました。ぜひうちから本を出してください』と口説いたそうです。また、新入社員当時,赤いバラの束を持って石原慎太郎氏の事務所に挨拶に行った話も有名。作家からすれば悪い気持ちはしないし,こうして見城氏は文壇に強固な人脈を築いていった」(出版社社員)という話もある(これで驚いたのは,そんなことで驚く出版社社員がいたことで,編集者が普段作家をどんな風に扱っているのか,判ろうというもの)。また,見城氏は幻冬社朝礼で,「編集者と作家は内臓と内臓がもつれあうように生きていかなければならないんだ!」と檄を飛ばしているという。
※角川春樹前社長のコカイン疑惑事件を機に退社した角川書店の社員らが新出版社・幻冬舎(資本金1千万円、従業員14人)を設立。1994年3月25日に同社初の刊行物を出版する。村上龍,吉本ばなな,山田詠美ら若手を代表する人気作家が書き下ろした“純文学”作品をはじめ,五木寛之氏のエッセー,北方謙三氏のハードボイルド小説,そして篠山紀信氏の撮り下ろし写真集と,6点をラインアップ。いずれも話題性を秘めており,部数も大きく伸ばしそうで,これを迎え撃つ他の出版社も座視できないようだ。(読売新聞)
海辺のカフカ (上)
ハルキ文庫の方は,やはり角川春樹編の「現代俳句歳時記」を免罪符として出してきた。たしかに「ハルキ文庫」という名前にはインパクトがある。しかしそのほかは,どこがハルキなのか,平凡な著者・タイトルばかりで魅力がないのは残念。「時かけ」の焼き直しなどで誤魔化さず,毒のある名前に相応しい文庫にして欲しい。スローガン「角川春樹事務所は<ニュー・エイジ>をコンセプトに新世紀の扉を開きます」のニュー・エイジはどこにいるのかが,まだ具体的に見えてこないのだ。
これら新参文庫に対して岩波書店は,「とくにどうということはないが….」と相変わらず投げやりなコメント。インターネットで通信販売も始めたし,もう書店の棚にはこだわらぬ,ということか。まさかね。

そして,12月5日には小学館文庫が創刊される。業界では最後の大物といわれ,春の創刊予定を大幅に繰り下げて,ラインナップを充実させたというので興味があったが,予告タイトルを見た限りでは,既存のエンターテイメント系の文庫と変わりがない。小学館文庫の企画は『週刊ポスト』のメンバーがやるらしいから,新鮮さを期待する方がおかしいのかもしれないが,「ド・ラ・カルト/ドラえもん通の本」くらいしか読みたい本が見あたらないというのは,なんとも小学館らしい….^^。