岩波文庫新刊「シチリアでの会話」。後半は一気に読み終えた。
読み進むうちに,単にシチリアの庶民生活を描いた作品という印象から大きく外れて,いやでも物語の裏に秘められた意味を感じざるを得ない異様な雰囲気になってくる。その異様さは,何によるのか? もし私に予備知識がないとしたら,世界大戦が激しくなる直前のイタリア軍部独裁による庶民の疲弊と,社会に広がる重苦しい雰囲気に満ちているから,という答えるかも知れない。物語の場所と時代は明らかにされている。
実際には,本書がスペイン内乱や反ファシズム運動の中で書かれていることがわかっているから,読みながら,その象徴的な言葉の羅列の中に,それにふさわしい意味を見出そうとした。常に物語の多層性を意識しながら。
「予備知識」たる訳者による「解説」は,本作に関わる多くの情報を整理したもので,作品の解釈に役立つものだとは思うが,なぜ100頁を超えるような異例の解説がつけられたのか。労作ではあるが,文庫本の解説として適当であるかどうかは疑問。簡潔な解説でも,本書の意義は十分に伝わりそうだが。