光文社文庫江戸川乱歩全集「化人幻戯」より表題作を読みました。
「化人幻戯」は還暦記念作として企画されたもので,例のごとく無理して書いたので,評判は余り良くなかった,などと乱歩自身次のように書いています。
『29年は私の還暦に当たり,東京会館で盛大な祝賀会を開いてくださったのだが,その席で私は調子にのって,江戸川乱歩賞基金100万円を探偵作家クラブに寄与することと,還暦を機会に若返って,来年(30年)は必ず小説を書きますと宣言したのである。・・・30年には私としては相当の仕事をしたわけである。その中では「化人幻戯」に最も力を入れたはずであったが,長篇構想の下手な私は,書いているうちに筋や心理の矛盾が無数に現われてきて,例によって,そのつじつまを合わせるために,毎月毎月苦労したのだが,トリックにはほとんど創意がなく,犯罪動機には新味があったけれども,万人を納得させる必然性に乏しく,私のすべての長篇と同じく,これもまた失敗作であった。』
それでも,戦後の代表作といわれているとおり,ストーリーはそれなりにまとめられていて,主人公である若き元侯爵夫人の妖艶な美しさもなかなか魅力的。個々のトリックに目新しいものは無いし,50歳になる明智探偵もカッコつけすぎの感はあるが,楽しく読むことができた。