岩波文庫7月の新刊5点(7月18日発売)
■不如帰(徳富蘆花)
「ああ辛い! 辛い! もう――もう婦人(おんな)なんぞに、生まれはしませんよ。」日清戦争の時代、愛し合いながらも家族制度のしがらみに引き裂かれてゆく浪子と武男。明治31-32年発表、空前の反響をよんだ徳冨蘆花(1868-1927)の出世作は、数多くの演劇・映画の原作ともなり、今日なお読みつがれる。改版
■明石海人歌集
明石海人(1901‐39)は25歳のときハンセン病と診断される。病が進行していく中、表現者としての研鑽を昇華させて数年の間に秀逸な短歌を残した。「もし長寿を保ったなら、昭和時代を代表する大歌人となったろう」(大岡信)といわれる才能は、隔離された生活の深い絶望を超えて、歌集『白描』をはじめとする文学性豊かな作品を生み出した。
■若き日の変転(カロッサ)
『幼年時代』に続くカロッサの自伝的小説。9歳頃から18歳頃までのギムナージウム時代が描かれる。主人公は家を出て、寮生活を送ることになる。若いたましいをかすめる一抹のかげり、思いがけずその上に投じられる一瞬の陽光。そうした微妙な明暗の交錯するなか、不安を隠し、戦慄を抑えながら驚きの目を見張る少年がたどる幾変転。
■秘密の武器(コルタサル)
悪夢、幻想、狂気――本書は言語化されたコルタサル自身のオブセッションであり、読む者をその妖しい魔力で呪縛して読後に烈しい恐怖と戦慄をもたらす、不気味で完璧なオニリスムの結晶である。幻想小説の至高点を求め続けた短篇の名手コルタサルの、その転換期の傑作「追い求める男」ほかに、息詰まるような緊張感をはらんで展開する四短篇を収録。
■子ども(下)(ジュール・ヴァレス)
屈折した環境で育ったジャックは、腕白だけど、人の心や世の中の仕組みには敏感な少年だ。両親の不仲、父が勤める学校での教師や生徒の序列、パリの寄宿舎での無味乾燥な受験勉強、そして将来へのほのかな自覚……。成長してゆく子どもの眼で、人間の哀しさとおかしさ、家族と社会の歪みを鋭く捉える自伝的小説。(全二冊完結)