岩波文庫9月の新刊(9月14日発売)は以下の4点。
■サラジーヌ 他3篇(バルザック作/芳川泰久訳)
「お気をつけて、生死にかかわることですからね」―若き彫刻家サラジーヌがローマで出会った奇蹟の歌姫。完璧な美に隠された呪うべき秘密とは? 狂おしい恋慕の果てに知った真の姿とは? バルトの名講義『S/Z』を導いた表題作ほか、音楽家、画家、女性作家――芸術家にまつわる四つの物語。一途で奇怪な情熱が渦巻く。
■指導と信従(カロッサ/国松孝二訳)
自分を導き、共に歩んでくれた人々に対する感謝と追憶の書。幼年時代から第一次大戦の末期にかけて体験した様々な出来事や忘れえぬ人々との交わり。カロッサの詩人・作家としての歩みにおいて重要な役割を果たした先達や仲間たち、中でも詩人リルケとの出会いを述べたくだりは確かな筆致で描かれ、鮮やかな印象を残して圧巻。
■宗教哲学序論・宗教哲学(波多野精一)
キリスト教信仰を思想の基盤とした波多野精一は、日本の宗教哲学の最初の体系的思想家である。波多野の代表作である宗教哲学三部作のうち、『宗教哲学』(1935年)、『宗教哲学序論』(1940年)を収録。宗教の本質は、理性的価値と絶対的実在との合一にあり、宗教的体験の徹底的な反省的自己理解にあることが論じられる。
■日本近代短篇小説選 昭和篇2〔全6巻〕(紅野敏郎,紅野謙介,千葉俊二,宗像和重,山田俊治編)
「《生きられますか?》と彼は彼女にきいてみた」(野間宏『顔の中の赤い月』)――焼跡から、闇市から、記憶から芽吹き萌え広がる物語。明治・大正・昭和を短篇小説で織るシリーズ第二回刊行の本書には、石川淳・坂口安吾・林芙美子ら昭和21年から27年までの13人13篇を収録。