光文社文庫江戸川乱歩全集の新刊「陰獣」。
本作は,「一寸法師」の連載終了後,1年半にわたり世から隠れて休筆していた乱歩にとって復活宣言となったもの。当時から世評が高く,これまで舞台や映画・ドラマでもしばしば取り上げられている。今回,久しぶりに読み直し,乱歩らしい淫靡な世界と本格的なトリックとの組み合わせの妙があり,やはり乱歩の傑作の名に恥じない作品だと感じた。
乱歩自身は「陰獣」という言葉について,『元来は 「陰気なけだもの」 という意味だったのが,セクシュアルな連想から 「淫獣」 というような語感を持ちはじめ,変態的な犯罪があると,新聞の見出しに 「陰獣」 という大活字が屡々現われるようになった』といっている。
ほかに収録された作品は,毒草,覆面の舞踏者,灰神楽,モノグラムなど休筆前のもの。こちらも乱歩版ショートショート集といった感じで楽しめる。