ボーナス時期。職場の若い人とバブルで恩恵を受けたか受けないかなどと話をしていたとき,バブル小説として真っ先に頭に浮かんだのが「なんとなくクリスタル」。1980年,大学生だった田中康夫が,若者に人気のブランドやレストランなどにいちいち詳しい脚注をつけながら,当時の都会のライフスタイルを描いたもの。いろいろと物議をよんだが,その時田舎の大学生だった私にとって,こんな別世界があるんだ,といったショックというか羨ましさを感じたね。
あれから26年。バブルがきて,あっという間に去っていき,名実ともに中年男になった私も,さほど気後れすることなく六本木や青山を徘徊し,シガーバーで紫煙をくゆらしていることを考えると・・・出世したモンだ。いやいや,一億中流化と言われて以来,大衆化が急速に進んだというのがホントだろう。しかし,これからは中流化どころか,一億総貧乏となりそうな気配。「なんとなくクリスタル」は,意外に違和感なく再び若い人のあこがれの生活になるような気がする。
そんなことを考えたのも,岩波文庫の新刊「モーパン嬢」(下)を読んで,時代のスタイルというものを強く感じたから。途中,登場人物がシェイクスピアを演じる劇中劇みたいなところもあり,ますますクラシックな芝居めいた印象になるんですね。