旺文社文庫は昭和40年6月創刊。グリーンの表紙に,
それよりやや濃いめのグリーンの箱という上品な造りと,年譜や参考文献,
鑑賞のポイントなどを含む懇切丁寧な解説に特徴があった。
ラインナップは日本文学,外国文学,伝記,教養だが,同社の読者層を考えてか,教科書で親しんだ作家,
偉人伝といったものが選ばれており,すべて現代仮名遣い,注を巻末ではなく各奇数ページにおく,さしえや写真を入れる,
翻訳はすべて新訳とするなど,受験参考書出版社らしい,
親しみやすさや読みやすさを重視した編集方針であった。
しかし箱付きの文庫本はコスト的に苦しかったのか,昭和48年には箱を廃止。普通の色刷りカバーになってしまい,同時に,
内容の面でも生徒学生向きから,成人向けへと変わってきた。
なかでも,内田百問(代字)の阿房列車シリーズ(これのみ旧かな使用),
漫画家や落語家のエッセイ,歴史小説など,
他の文庫で手に入りにくい渋めのシリーズに人気があり,翻訳物でもマーク・
トゥエインのちょっと面白い話など,変わった作品を収めていた。
ちょっと古めかしいカバーデザインもそれなりに魅力があったが,他社のエンターテイメント路線に押されて,昭和62年,
1千点ほどを刊行し休刊となった。一部は光文社文庫などで復活したものの,ユニークな作品の多くが埋もれてしまったことは残念。
なお,箱入り本の他に,厚表紙の学校図書館向け特装本もつくられ,
これは古書店等で現在でもときどき見かける。