物語・・・・修道院に悪魔祓いのために派遣されるスーリン神父は,その途中の宿屋で,怪しい噂を耳にする。
修道女たちに悪魔が憑き,みな裸で踊り回るなど狂乱状態だ。とくに尼僧長のヨアンナには,いくつもの悪魔が住み着き,
どんな悪魔祓いの儀式も功を奏さない。神父の前任者も,このヨアンナの妖気に惑わされ,狂い死んだのだという。
不安でいっぱいの神父が,修道院で実際に出会ったヨアンナは,普段は魅力的な瞳を持った淑やかな女性。しかし,
いちど悪魔が乗り移ると,野獣のように唸り,呪いの言葉を吐き,ほかの修道女とともに荒れ狂うのだ。
はじめは,教理に則って,公開の悪魔祓いの儀式をおこなうスーリン神父だったが,全く効き目がないことを悟ると,
密室でのヨアンナとの一対一の対決を試みる。そして次第にヨアンナの苦しみ,真実の声を知るにしたがい,自らがその悪魔の犠牲になるほかに,
ヨアンナを救う道はないと知る。
ついにそのときは訪れ,ヨアンナと抱き合った神父は,体の中に悪魔たちが乗り移るのをはっきりと感じる。その後,
すっかり普通に戻ったヨアンナに対し,悪魔を受け入れた神父は,内なる悪魔との戦いの中で疲れ果て狂乱。
ヨアンナの肉体に戻ろうとする悪魔を自らの内に永遠に閉じこめるため,悪魔にすべてを売り渡す。悪魔は神父に従者ら二人の少年を殺害させ,
ふたたびヨアンナも狂うが,しばらくののち元に戻り,その後は長く修道院長をつとめる….。
・・・この物語はもともと,17世紀フランスの史実をもとにポーランドの作家イヴァシュキェヴィッチによって書かれたもので,
出版されたのは大戦直後の1946年。ナチの侵略など,当時のポーランド情勢をふまえて,
この悪魔をなにか象徴的なものとして捉える読み方も当然ある。
とくに本書を有名にしたのは,カヴァレロヴィッチ監督によるポーランド映画で,日本でも1962年に公開され大変評判になった。
この映画では,あきらかに大戦中のナチ支配から,戦後のスターリン圧政によるポーランドの苦悩を全面に押し出している。