岩波文庫「ブリタニキュス ベレニス」(ラシーヌ)を読む。岩波文庫の「ブリタニキュス」は1949年,内藤濯訳が出て以来,およそ60年ぶりの改訳ですな。
ご存じ「ブリタニキュス」は,ラシーヌのローマ悲劇のひとつで,ネロ(ネロスと書かれるとちょっと調子が狂う)が,母アグリピーヌや妻オクタヴィーとの確執,愛人をめぐる嫉妬などから,政敵ブリタニキュスを殺害し,自ら狂気の道へ走るというもの。ブリタニキュスが殺されたあと,アグリピーヌは,いずれ私も殺すのだろうとネロに迫るが,事実,55年にブリタニキュス,59年に実母アグリピーヌ,62年に妻オクタヴィーをネロは殺害しているということで,これが虐殺者,暴君への第一歩だったわけだ。
本書では,ていねい,かつ膨大な訳注がつけられており,それをいちいち参照するのは大変。だが,ネロとアグリピーヌとの緊迫感のあるやりとりや,ブリタニキュスの愛人ジュニーをなんとかモノにしようとするネロの強引な口説き,腹心の部下ナルシスのあくどい仕業などは,ストーリーを追うだけでも充分楽しめる(劇作だから当たり前か)。
コメント
コメントは受け付けていません。
ラシーヌ『ベレニス』
ラシーヌの悲劇は、たいてい血の海と化す。不可逆的なダイナミズムが臨界点に達したとき、死によって劇が収束するのが、常套だ。その極致は、ラシーヌが最後に著した…